2022 Fiscal Year Annual Research Report
イギリスのプラトン主義の系譜―バークリとケンブリッジ・プラトニストの比較研究
Project/Area Number |
19K12972
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
竹中 真也 中央大学, 人文科学研究所, 客員研究員 (50816907)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人間論 / 神 / 知性 / 魂 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「カドワースの人間論」を『紀要ー哲学』(中央大学文学部 (65) 77-93 2023年3月)に掲載することができた。この論考は、セッション(第45回日本イギリス哲学会(セッション 〈17 世紀イングランドでの新旧哲学の融和と変容――信仰・理性・経験〉)の発表原稿をもとにしており、知性、意志、恵みを軸にして、人間の道徳的行為がいかにしてなされるのかを明らかにしている。あるいは本論は、カドワース哲学において、人間の魂の初期状態と、その能力の限界を解明したものとも言える。さらに、形成的自然について論文にはできなかったが、バークリが『サイリス』で論じた形成的自然とカドワースのそれとの比較研究という論点を見いだすことができた。ただこの点の詳細な検討は、今後の課題になる。 全体をとおして、これまでほとんど正面から論じられることのなかった、イギリスにおけるプラトン主義の系譜をカドワースとバークリを介して明らかにした。彼らに共通の思考様式をあげるなら、彼らにとって、生得的思念は実在し、人間はそれを想起することで、普遍的思念を得る。ただし、その思念は不活発な認識対象ではなく、知性の活動と一体化している。しかも、知性による思念の認識は神の精神の存在と関連するように論じられるのであり、知性の認識において人間は神に近づく。こうした彼らの主張を背景で支えているのは、キリスト教的プラトン主義であり、ルネサンス期において形成された古代神学である。それゆえ彼らは、ルネサンス経由の人文主義的な遺産を引き継いだとも評価できる。こうして、一七、一八世紀におけるイギリスの隠れた知の系譜の実相が今回の研究から浮き彫りになった。
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