2019 Fiscal Year Research-status Report
テクノロジー的全体主義の分析:アーレントとヨナスの思想比較を通じて
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19K12974
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
百木 漠 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (10793581)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アーレント / ヨナス / 全体主義 / テクノロジー / 生政治 / 新自由主義 / ポスト・トゥルース |
Outline of Annual Research Achievements |
戸谷洋志との共著『漂泊のアーレント、戦場のヨナス』の執筆を進め、無事に脱稿した。現在はゲラ校正に移っている段階であり、順調にいけば2020年7月頃に慶応義塾大学出版会から出版予定である。執筆にあたって、コンスタンツ大学からアーレントとヨナスの往復書簡のコピーを取り寄せ、定期的に研究会を開いて、その読解・翻訳作業を進めてきた。これによって、国際的に見てもこれまで研究されてこなかった、晩年のアーレントとヨナスの思想的交流と、互いの著作(アーレントの『精神の生活』、ヨナスの『責任という原理』)への思想的影響を明らかにすることができた。本共著の刊行によって、アーレント・ヨナス研究のみならず、20世紀の思想史研究にインパクトを与えることができるはずである。2019年度はこの共著執筆とその準備のための共同研究に最も時間を費やした。 また「テクノロジー的全体主義」研究の一環として、『現代思想』2019年4月増刊号「現代思想43のキーワード」に「ポスト・トゥルース」と題する論考を寄稿した。2016年のトランプ現象とともに話題になった「ポスト・トゥルース」について、アーレントの「政治における嘘」論と全体主義論から考察した。 大阪哲学学校編『生きる場からの哲学入門』(新泉社、2019年)には「全体主義とは何か:アーレント『全体主義の起原』を手がかりに」を寄稿し、アーレントの全体主義論を再構築しながら、改めて全体主義の定義を再考察した。昨今のポピュリズムや排外主義などの現象にも触れながら、新たな全体主義の危険性についても言及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戸谷洋志との共著『漂泊のアーレント、戦場のヨナス』はすでに脱稿し、ゲラ校正の段階に入っている。順調にいけば、2020年7月中に慶応義塾大学出版会から出版予定である。これによって「テクノロジー的全体主義」の概観を描きだす作業にはひとまずの見通しがついた。 もうひとつの執筆プロジェクト、アーレントの「政治における嘘」論から「ポスト・トゥルース」現象を考察し、そこから21世紀的全体主義を描き出す計画については、『現代思想』2019年4月増刊号へ寄稿するとともに、それを元にした単著(仮題『嘘と政治:アーレントから考えるポスト真実』、青土社、2021年中出版予定)の準備原稿も順調に執筆を進めている(全6章のうち第4章までの草稿を提出済み)。 また、大阪哲学学校編『生きる場からの哲学入門』(新泉社)に「全体主義とは何か」を寄稿、『季報唯物論研究』第147号に「アーレント、マルクス、ポピュリズム」を寄稿、大阪市立大学『経済学雑誌』に「いま、マルクスを読む意味」を寄稿するなど、付随する諸テーマに関する研究発表も継続的に行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年7月に戸谷洋志との共著『漂泊のアーレント、戦場のヨナス』を刊行後、いくつかの出版関連イベントや合評会に参加予定である。2020年10月に東京大学で開催される社会思想史学会では、「アーレントとヨナスの思想的交差」と題するセッションを企画し(エントリー済み)、戸谷とともにアーレントとヨナスの思想的関係について研究報告を行う。共同研究の成果について、木村史人・渡名喜庸哲らとともに討論し、思想史研究における意義を改めて考察する。 2021年中に青土社から刊行予定の単著『嘘と政治;アーレントから考えるポスト真実』についても、引き続き原稿執筆を進め、アーレントの「政治における嘘」論から21世紀全体主義(テクノロジー的全体主義)について考察する研究を深めていく予定である。 また2020年3月に渡独して、コンスタンツ大学およびHannah Arendt Zentrumにてアーレントとヨナスに関する資料収集をさらに行う予定にしていたが、コロナ感染拡大のために実現できなかった。2021年以降に可能であれば、再度渡独を計画し、資料収集を行うとともに現地の研究者とも交流して、アーレントとヨナスの比較研究に関する意見交換を行いたいと考えている。 2020年8月には日本アーレント研究会編『アーレント読本』も刊行予定であり、現在、その編集作業を進めている(百木は「労働」の項目を担当)。そのほか、積極的に機会を見つけて研究発表・論文執筆等を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
3月に渡独してコンスタンツ大学やHannah Arendt Zentrumで資料収集を行う予定にしていたが、コロナ感染拡大のために渡独が不可能となったため、出張を中止した。その出張旅費が次年度繰越しとなっている。 2021年3月に再び渡独と資料収集を計画する予定である。ただし、コロナ感染拡大の状況次第で計画を変更する可能性もありうる。
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