2020 Fiscal Year Research-status Report
テクノロジー的全体主義の分析:アーレントとヨナスの思想比較を通じて
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19K12974
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
百木 漠 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (10793581)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アーレント / ヨナス / 全体主義 / テクノロジー / 出生 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度には戸谷洋志とともに『漂泊のアーレント 戦場のヨナス:ふたりの20世紀 ふたつの旅路』(慶應義塾大学出版会)を出版した。これまでのアーレントとヨナスの思想比較に関する戸谷との共同研究をまとめたもので、ふたりの生涯と思想を並行的に記述して比較考察したものである。この共著に関連して、第45回社会思想史学会の大会セッション「アーレントとヨナスの思想的交錯」を企画し、戸谷とともに共同発表および討議を行った。 また、日本アーレント研究会編『アーレント読本』の執筆者および編集委員として参加し、総勢50名におよぶ研究者による共著をまとめることに貢献した。執筆者としては「労働」の項目および、『全体主義の起源』、『エルサレムのアイヒマン』、『パーリアトしてのユダヤ人』の解題(いずれも石神真悠子との共著)、「ハンナ・アーレント・センター」のコラム(阿部里加との共著)、を担当した。 そのほかに、アーレントのテクノロジー論を用いて現代の人工知能開発の「黒魔術化」を考察した論考「人工知能と言語不可能なもの」(『現代思想』2020年9月号、青土社)や、2019年に来日したデーナ・ヴィラの闘技主義的アーレント解釈を再考した「D. ヴィラによる闘技主義的アーレント解釈:アーレント活動論の非個人的次元」(『Zuspiel』第3号)、佐々木隆治や斎藤幸平による近年の新たなマルクス解釈を批判的に検討した「エコ・マルクス主義に対するいくつかの疑問」(『唯物論』第94号)を著した。 ほかに、コロナ禍でのオンラインコミュニケーションの利便性と問題点について、アーレントの公共性の議論を応用して考察した短文を朝日新聞に寄稿した(「アーレントVSシュミット コロナ時代の公共性を考える」朝日新聞2020年5月9日記事)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アーレントとヨナスの思想比較をテーマとした、戸谷洋志との共同研究の成果を、共著にまとめて発表することができたことは計画通りで、非常に満足している。社会思想史学会で、木村史人・渡名喜庸哲・田中智輝らを招いてこのテーマについて討議を行ったことにより、アーレントとヨナスの思想比較についての理解をより深めることもできた。 またアーレントのテクノロジー論を参照しながら、人工知能の黒魔術化問題について論じられたことも、「テクノロジー的全体主義」についての考察を進めるうえで意義のあるものだったと考えている。さらに、アーレント思想からポスト真実の問題を考察する単著『嘘と政治:ポスト真実とアーレントの思想』の執筆も順調に進めることができ、2021年度4月の出版へと繋げることができた。 以上の点から研究計画は順調に進展しているものと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度はまず単著『嘘と政治:ポスト真実とアーレントの思想』の原稿を完成させ、4月中に出版予定である。5月には政治思想学会にて「始まりのための嘘:アーレントの「政治における嘘」再考」と題する自由論題報告を行い、6月には雑誌『世界』(岩波書店)にて「テクノロジー的全体主義」に関する論考を発表予定である。また現在、講談社現代新書からアーレント思想の入門書となる新書の執筆依頼を受けており、7月以降にその執筆を進める予定である。これらの執筆・発表機会をつうじて、アーレント思想から「テクノロジー的全体主義」の問題を考察する研究を進展させていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、資料収集のためのドイツ出張や学会・研究会発表のための国内出張が取りやめとなり、旅費を中心に大幅な期ズレが生じたため。2021年度、コロナ状況が改善し、ヨーロッパでの資料収集が可能となれば、出張へ出向く予定である。国内での発表に関する出張に関しても同様。
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