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2019 Fiscal Year Research-status Report

ギリシア伝統音楽再編過程の研究:ポリティコ・ラウートを中心に

Research Project

Project/Area Number 19K12980
Research InstitutionTokyo National University of Fine Arts and Music

Principal Investigator

佐藤 文香  東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (80632257)

Project Period (FY) 2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords楽器と身体 / 伝統音楽 / エコミュージコロジー / ギリシア / 音楽教育
Outline of Annual Research Achievements

本研究対象ポリティコ・ラウート(以下ラフタ)の現状把握に努めるため、ペリクリス・パパペトロプロス氏の実践に焦点を置いて調査を進めた。氏の実践に注目したのは、氏がギリシア国内外におけるラフタ演奏および指導において精力的に活動をつづけており、また公私両方の教育機関における指導経験があるほか、あくまでも伝統音楽の範疇内で活躍する音楽家であるからだ。とりわけラビリントスという私的でありながら国内外の伝統音楽教育において大きな影響力をもつ組織における氏の指導に注目し、その奏法の体得に努めた。氏はギリシア国内においてはバーラマ(サズ)演奏の第一人者といえ、氏のラフタ奏法にはサズの要素が散見されるが、それが主として右手の奏法に起因するものであることがわかった。また、本研究は公教育機関における伝統音楽指導に組み込まれた楽器タブラスとの比較を通じて、制度外の伝統音楽をめぐる自発的な動きを掬い上げてゆくことも意図するものであるが、タブラスはサズの形状や細部を画一化することによってギリシア化された楽器にほかならない。それゆえ氏の実践への注目は制度内外の問題を考えるうえでも示唆に富むものであった。またサズに限らず他の音楽様式の要素を導入することで、氏がラフタの音楽的可能性を拡げようと試みていることがわかった。氏の奏法はウードを他の専門楽器とするアレクサンドロス・パパディミトラキス氏とは対照的に力強いと言われることがある。今回の調査ではこうしたラフタをめぐる動態的側面をうまく捉えることができたといえ、楽器と身体の関係等について今後考察を進めるための分析視点を設定するうえで十分な成果が得られたと考える。また楽器製作時の素材の選定やデザインの決定など、楽器の生成過程における製作者の新たな試みやその根底にある考えや方針等、「モノとしての楽器」についての考察を進めるうえでの手がかりとなる情報収集にも努めた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

昨年度実施した現地調査をとおして、本研究を遂行するうえで設定した三つの視座(「モノとしての楽器」「楽器と身体」「演奏形態」)すべてに関連する有意義な情報を収集することができた。復興以前の演奏脈絡においてラフタが独奏された記録はほとんど残っていないが、復興から約30年近く経過した現在、ラフタは独奏楽器としても十分に拡がりのある楽器として受容されている。そうした独奏楽器としての可能性を探求するために、既存の手法に限定せずに作品を創作する、楽器に細工を施す、他の楽器の奏法や他の音楽様式の要素(e.g. リズム)を伝統曲の演奏に導入する、といった工夫がなされていることが今回の調査で確認できた。従来とは異なる用途での演奏に適う楽器としてラフタが変化し、それが定着していく過程において、楽器、演奏実践の身体化、演奏の機会、といった要素は密接に関係し合っており、今後、これらの要素の双方向的な作用にも注目して調査をすすめてゆく必要があると考えている。
本研究はまた、楽器製作者も音楽文化の重要な創造的役割を担う構成員として考慮に入れるものであるが、昨年度実施調査をとおして、製作者が楽器の最終的な行き先を考慮に入れ、使用する素材を選定するなどの工夫をしていることがわかった。従来はイスタンブルに由来するラフタがアテネで製作されるに際して、使用される素材の幅が広がったのみならず、最終的な持ち主となる人物の居住地の湿度といった要素も製作時に配慮されているのである。こうした事実をさらに追究していくことで、エコミュージコロジー領域の展開への寄与も期待できるものと思われる。その点でも、研究の進捗状況はおおむね順調であるといえる。

Strategy for Future Research Activity

昨年度実施調査をとおし、一人の音楽家の演奏実践だけを対象としても、実に多様な演奏レパートリー(民謡、大衆歌謡、古典音楽、小アジア由来の伝統歌、自作)があることや、この音楽家が演奏法の拡大や他の様式の要素(リズム、音の配列)の導入など創造的な試みに精力的に取り組んでいることがわかった。また、一人の楽器製作者が作る楽器も持ち主となる人物の居住環境や身体つき等に伴う要望に応じて選定される素材やサイズに多彩な幅があることがわかった。そこで、当初の研究構想を一部改め、ラフタをめぐる自発的な動きを掘り下げ、この楽器をめぐる諸事象の特徴を浮き彫りにする際に、学校教育に導入された楽器タブラスとの比較を主要な方法として頼ることはせず、あくまでも補助的な手段として比較の視点を導入することとする。観察対象をラフタのみに絞って研究を進めるほうが建設的であると判断したためである。
具体的には、昨年度同様の調査の続行をとおして、ラフタの演奏実践や指導等のさらなる現状把握に努めたいと考えているが、それと並行して、収集した映像資料等の比較分析を通じて、楽器と身体の関係を考察するための分析視点を整理し、今後の調査時の収集対象を絞り込んでゆく。また、今年度調査については渡航困難な事態が続くことを想定し、主として楽器じたいおよびその製作過程に焦点を当てて進めてゆく。その際、音楽家と楽器製作者との相互補完的な関わり合いとおして理想とする楽器が生み出される様子等を描き出すことに成功している先行研究Dudley 2017を参考に、着眼点や質問事項を整理し、インタビュー等のオンライン調査を実施するなどして対応できるように策を講じたい。

Causes of Carryover

年度末図書発注後の差額のみで使用可能な用途がなく、次年度使用額が生じた。消耗品の発注で消化予定である。

URL: 

Published: 2021-01-27  

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