2022 Fiscal Year Annual Research Report
ギリシア伝統音楽再編過程の研究:ポリティコ・ラウートを中心に
Project/Area Number |
19K12980
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
佐藤 文香 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (80632257)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | サズ(バーラマ) / タブラス / ラフタ |
Outline of Annual Research Achievements |
サズとラフタの比較を進めるにあたりサズとタブラスの関係整理から始めた。公教育に導入されたタブラスはシモン・カラスがギリシア教会音楽の指導を念頭にトルコ出身楽器製作者に依頼した楽器に端を発し、トルコのサズにフレット数の増加、寸法や共鳴孔の位置の規定といった改変を加えた楽器である。こうした構造面に加えて奏法やレパートリーの面でも制限が設けられた楽器といえる。たとえば、公教育の教材として使用されているタブラス教則本(Arvanisitis 1997)にはギリシア教会音楽の記譜法と五線記譜法が併用され、収録曲はすべてギリシア語の歌(大多数が民謡(現在のギリシア国境内に限定されず、かつてのギリシア人居住地域の民謡も含む)、一部ビザンツ聖歌)で、各曲には教会音楽の旋法名が記されている。この教則本は大きな影響力をもったが、近年のタブラス教則本との比較検討結果、教会音楽を基点とする傾向は見られなくなったものの、そのレパートリーは今もギリシア民俗音楽の範囲内であることがわかった。ラフタの演奏にサズの要素を取り入れることには、こうしたタブラスに課された制約を超えて演奏表現を追求し、創作の可能性を広げようとする意図があると考えられる。また調査をとおして、ラフタ指導におけるレパートリーは地域的にもジャンル面でも幅広いことがわかったが、そうした楽曲の習得時にはマカームについて習熟していくことも重視される。その到達先といえるタクスィーム(器楽即興演奏)指導の実態調査から、撥弦楽器と擦弦楽器との違いは意識されるが、撥弦楽器間ではそれらの差異よりも追求する表現の実現可能性に比重が置かれることがわかった。ここからラフタ奏者の間では各人の専門楽器に応じたラフタ演奏の違いがさほど意識されておらず、むしろ各人の演奏表現の追求結果に付随する表面的な差異にすぎないと認識されている可能性が浮かび上がってきた。
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