2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K12983
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
井奥 陽子 東京藝術大学, 美術学部, 助手 (60836279)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近代 / 啓蒙 / 美学 / ヴォルフ学派 / 占術 / 予見 / 認識 / 記号 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)バウムガルテンを占術史に位置付けることを試みた。 (1-a)遺稿における占術体系を、占術の分類を記した古代から中世のテクスト(イシドール、サン=ヴィクトルのフーゴー、トマス・アクィナスなど)と比較した。バウムガルテンの体系はいずれとも相違し、独自の分類であると結論付けた。(1-b)バウムガルテンが占術へ関心を寄せることは、18世紀ドイツにおいてゴットシェートやトマージウスが魔女信仰や神託を脱魔術化したことと対比的であり、遺稿の編者であるフェルスターでさえ、バウムガルテンの古代占術への傾倒に疑念を表明していることを指摘した。 (2)バウムガルテンが何故また如何にして、占術を哲学的学科としての美学へ参入しようとしていたのか検討した。バウムガルテンによる占術の美学を、経験的心理学に基礎づけられた「予兆の記号術」として技法化する試みとして特徴づけ、バウムガルテンの企てを先行研究よりも精確に示した。 (2-a)バウムガルテンは占術の手段を「記号」や「徴」と捉える観点をルネサンス思想から受容しつつ、ライプニッツが携わった「記号術」のひとつに占術を含めようとしたことを明らかにした。(2-b)バウムガルテンにおける占術は理性に類比的な「類似した状況の予期」が対象とされるかぎりで、その認識の仕方は経験的ないし蓋然的ではあるが、根拠を欠いているわけではなく、それゆえに技法化の構想が可能になったと指摘した。 (3)バウムガルテンやマイアーの美学思想に影響を受けた詩人ウーツについて、哲学的な詩「弁神論」を分析した。この詩はライプニッツの神学的な可能世界論を主題にしたものであるが、クライマックスでは天文学的な複数世界論が交錯することを指摘した。 (1-b)と(2)については、美学会の全国大会で発表した。(3)については、共同科研の研究会で発表した。また、(1-a)と(2)の成果の概略を、占星術研究者との対談で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症の世界的流行により、2020年度の研究活動は予想外の停滞を余儀なくされた。年度初頭に予定していた「今後の研究の推進方策」の(1)に注力するかたちとなり、(2)のマイアーのテクストの検討には着手できなかった。また、上述の「研究実績の概要」(1-b)と(2)をまとめて1回の学会発表で公表したが、議論を深めて独立した論考とする必要があることが質疑を通じて分かったため、論文投稿には至らなかった。 しかしテクストの精査によって、一見すると占術への関心が弱まる1750年代のバウムガルテンには、キケローの占術批判に対する抵抗が読み取れるのではないか、という新たな仮説を得た。 また年度後半には、当初予定していなかった複数のオンライン・イベントで発表する機会を得た。まず上述の対談では、占星術研究の観点から、バウムガルテンにおいて占術や霊感が下位能力に位置付けられていることの特異性が指摘された。これは研究実績(2-b)に反映すべき観点である。また社会思想史研究者との対談では、啓蒙時代にアルスの概念の変容がヨーロッパ各地で見受けられ、そうした大学やアカデミーの運動が市民革命や産業革命に繋がる、という知見を得た。これは研究実績(2-a)に反映すべき観点である。さらに、18世紀研究者によって構成された共同科研での発表では、バウムガルテンの意図的な古代趣味は宗教的な信念に裏付けられているのではないか、という示唆を得た。これはとりわけ研究実績(1-b)に反映すべき観点である。 以上のように、業績の数としては乏しいものの、他分野の研究者との交流を通じて、本研究をより深みのあるものにするための知見を獲得することができている状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)上記「研究実績の概要」(1)の調査を進め、論文にまとめて学内紀要に投稿する。 (2)ヴォルフにおける記号概念を検討する。上記「研究実績の概要」(2-a)と併せて論文にまとめる。日本18世紀学会で公表・投稿する。 (3)ヴォルフ学派の経験的心理学における予見能力論を、古代の霊感論との関連を視野に入れつつ検討する。上記「研究実績の概要」(2-b)の結果も踏まえて論文にまとめる。美学会で公表・投稿する。 (4)バウムガルテンの『美学』をキケローの『占いについて』への抵抗という観点から読解する。美学会で公表・投稿する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の世界的流行により、広島大学で予定していた学会発表がオンライン実施となり、また夏に予定していたドイツでの在外研究が叶わなかったため、各々の国内・国外旅費を他の使途に当てることになった。代わりにオンラインでの研究環境の整備が必要となり、ウェブカメラやノートパソコンなどの物品を購入したが、年度末に海外渡航が可能になるかもしれないという期待を抱いていたため、全額の執行には至らなかった。2021年度に万が一海外渡航が可能になれば、在外研究のために使用するが、ワクチンの普及が遅れて不可能な場合、近代思想関連書籍の購入に使用する。
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Remarks |
井奥陽子、上野大樹「著者と語る 哲学オンライン対談:井奥陽子『バウムガルテンの美学』をめぐって」みんなで読む哲学入門・特別編、日本18世紀学会後援、2020年11月 鏡リュウジ、井奥陽子「占いを美学する? 占いと美と認識論と」朝カルオンライン、朝日カルチャーセンター新宿教室、2020年10月
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