2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K12983
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
井奥 陽子 東京藝術大学, 美術学部, 助手 (60836279)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近代 / 啓蒙 / 美学 / ヴォルフ学派 / バウムガルテン / 占術 / 記号 / 認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、初期近代のドイツにおいて占星術を中心とする占術が、いかにして学問から脱落していったのか検討した。その過程で、16世紀から17世紀にかけての百科全書思想(学識として必要な学問を網羅的かつ効率的に学ぶことができるよう、あらゆる学知を総覧化する試み)に着目した。とりわけアルシュテートの『百科全書七巻』(1630年)を精査し、アルシュテートおよびその高弟であるコメニウスの思想が、ライプニッツによる普遍学および記号法の構想を媒介として、美学の創始者・バウムガルテンへと流入した可能性を見出した。 さらに、バウムガルテンの美学がいかにして認識論によって基礎づけられているのか検討し、日本哲学会全国大会で発表した。形而上学の一部門である経験的心理学が能力論を担うこと、美学は認識論(gnoseologia)とも呼ばれるが、それは創作実践をつうじて下位認識能力を涵養する役割を果たすからであることを主張した。こうした認識論と美学の関係は、言語と認識を不可分とする当時の論理学思想に基づいたものであることを、併せて指摘した。 また、2020年に出版した単著の合評会を設け、美学のみならず倫理学、社会思想、音楽学の研究者と議論した。そこでは、カントとロマン主義美学の価値観があまりに強力なために、ヴォルフ学派美学への接近が容易ではないことが確認された。それによって、占術や百科全書という観点からヴォルフ学派美学にアプローチする本研究課題の有効性が示されたかたちとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行が長期化したため、2021年度も国内外での研究活動の停滞が余儀なくされた。とりわけ、占星術の学問からの脱落過程を大学カリキュラムから解明するという当初の研究計画は、ドイツの文書館での資料調査が不可欠なため、海外渡航が不可能な状況にあっては研究手法の転換が必要となった。しかしその過程で、初期近代の百科全書思想の重要性を見出すことができ(「研究実績の概要」参照)、代替手段による研究に一定の方向性を与えることができた。また上述の合評会は、当初の予定から一年延期したうえでのオンライン開催となった。しかしその間に評者と個別に議論する場を設けるなど、研究者との交流を深め、本研究をより深みのあるものにするための知見を獲得することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ライプニッツによる普遍学および記号法を結節点に、初期近代ドイツの百科全書思想と美学の誕生との繋がりを検討する、という2021年度の方針をさらに進める。また、なかでも占術および予見能力についての考察を深めるため、未来を予測する諸技術がどのように学問と非学問とに分離していったのか、科学の発展による世界像の転換という観点から検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の世界的流行により、岡山大学で予定していた学会発表がオンライン実施となり、また夏に予定していたドイツでの在外研究が叶わなかったため、各々の国内・国外旅費を他の使途に当てることになった。代わりに書籍やパソコン周辺機器などの物品購入に使用したが、全額執行には至らなかった。2022年度にはおそらく海外渡航が可能になると思われるため、在外研究のための旅費に使用する。
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Remarks |
井奥陽子、高木駿、八幡さくら、小谷英生、堀朋平「井奥陽子『バウムガルテンの美学:図像と認識の修辞学』オンライン合評会」2021年12月
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