2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K12987
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
宍倉 正也 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 研究員 (90781766)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | からゆきさん / 戦前日本人移民 / 日本の植民地主義 / 海外に伝わる日本の歌 / 記憶の政治学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究は順調に進んでいる。2019年度前半に予定していた、ビデオカメラ等の機材の購入は無事終了した。現在まで、特に研究計画の変更は必要ないと思われる。研究自体に関しては、2020年1月から大幅に進捗した。まず、2020年1月に韓国、釜山で現地調査を行った。戦前の朝鮮半島へ渡った「からゆきさん」に関してはあまり資料が残っていない。しかし、今回の調査で多くの「からゆきさん」が朝鮮半島、そして釜山へ渡っていたことが判明した。実際には、釜山近隣にある馬山と言う場所へ多くの「からゆきさん」が渡り、仕事をしていたらしい。また韓国慶州にある「ナザレ園」という、戦後身寄りがなく日本へ帰れなかった人たちのための施設を訪問した。この「ナザレ園」には、馬山から来た人がたくさんいたと言うことだった。確証は得られなかったが、おそらく「からゆきさん」も含まれていたと思われる。その後、熊本大学グローバル教育カレッジにて「歌からたどる『からゆきさん』の物語」と言うタイトルで講演を行った。そこで、多くの人との交流を持てたことは貴重な経験で、「からゆきさん」に関する新しい情報も得られた。それは「今後の研究の推進方策」で述べたい。また、熊本大学の教員、そしてマレーシアプトラ大学から訪問していたチャン教授らと共に、天草、島原地域での現地調査を行った。共同で調査を行うことで、私が見落としていたことなどをご指摘、ご鞭撻いただき、大変有意義な調査となった。その後、マレーシアのクチン、そしてシンガポールでも現地調査を行った。特にシンガポールでは、以前お会いすることのできなかったガン様から、実際に「からゆきさん」と交流したお話が伺えとても有意義だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究では、海外などの現地調査が重要になってくるが、本年度は韓国の釜山、マレーシアのクチン、シンガポール、また島原・天草で現地調査を行えたことが非常に有意義であった。それぞれの場所で新しい発見や見識が得られたが、特にシンガポール、マレーシアには、やはり多くの資料が残されていることがわかった。シンガポール日本人会は独自の資料を集めており、そこに多くの「からゆきさん」に関する資料が残されていることを確認した。しかし、基本的に外部には資料を公開していないらしく、史跡資料部の担当者も病気療養中で、さらにはコロナウイルス騒動が重なり、その資料を今回、収集することはできなかった。ここは是非再訪し、資料を集めなければならないと考えている。マレーシアに多くの日本人墓地があることはわかっていたことだが、これもできればその全てを訪問する必要がある。今回クチン、そしてジョホールの墓地を訪問したが、それぞれ違った発見があった。今までサンダカンの日本人墓地が取り上げられることが多かったが、実はクチンにも「からゆきさん」が多くいたらしい。カイジュウレーンと言う細道、警察署の裏手に娼館があったことも興味深い事実だと思われる。また、全く日本人とは関係ない方が「愛国の花」と言う曲を覚えていることに驚かされた。聞くところによると、戦時中に日本軍からこの曲を習った人たちがいて、それを又聞きしたらしい。それでも歌詞に歌われた日本語は容易に聞き取ることができた。このような曲を深く調べることにより、「からゆきさん」、そして日本人移民の別の側面やライフストーリを展開できる可能性がある。マレーシアにはペナン、マラッカ、コタキナバルなど他にも多くの日本人墓地がある。これらを詳細に調べ上げれば、新しい情報や知見を得られるだろう。このように初年度の現地調査は概ね順調だったと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も前年度同様、現地調査を行っていきたい。特に、シンガポール、マレーシアは情報が多いので、重点地区として調べたい。また、香港、オーストラリアのシドニー、ケアンズ、ブルーム、トレス諸島にも多くの情報が残されていることが分かっている。これらの地域にも足を伸ばしたい。今後の現地調査で、特に新しく重要になってくる地域としてタンザニアのザンジバルがあげられる。熊本大学で講演を行った際に聞いた話だが、ザンジバルの伝統音楽ターラブでは、日本の大正琴が使われることがある。そして、この大正琴は「からゆきさん」によって、インドを経て、ザンジバルまで伝えられたと言うことだ。音楽と「からゆきさん」を結びつける資料は実際、それほど多くは残されていない。そのため、このザンジバルのターラブ音楽、そこで使われている大正琴の研究は、この研究を進捗させるために欠かせないものと思われる。今後は、ザンジバルの音楽について精査し、準備を施し、ザンジバルにはなるべく早い時点で一度訪れたいと思っている。また国内調査だが、基本的資料を集めるための国会図書館等での調査が必要だと言うことが分かった。そのため、国内での資料調査を早い段階で行い、文献資料を精査したい。この文献調査は、今まで集めた現地調査の足りない部分を補うことになる。特に、戦前日本人移民に関する文献は重要で、例えば中国の奉天、今の瀋陽では、日本人移民がスポンサーになって「からゆきさん」を含めた舞台劇を行っていた可能性がある。そのような資料が集まればと思っている。ただし、これらの研究全般に影響することだが、今回のコロナ騒動はこの研究を大幅に遅らせる懸念がある。特に、海外現地調査を主とするこの研究では、渡航ができなければ研究もできず、進捗も望めない。将来的には、研究計画の延長が必須になるものと考えられる。
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Causes of Carryover |
令和元年度の予算は40万円ほど残額がある。これは次年度以降の現地調査のために、なるべく資金を残しておくため、航空券やホテル代を節約したためである。また令和元年度の調査地域は、主にアジア地区であったため、比較的旅費を節約できたことも理由に挙げられる。今後も、この研究では海外現地調査が主になるため、前倒し支払い請求を行い、さらに十分な調査費用を確保した。
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Research Products
(1 results)