2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K12987
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
宍倉 正也 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 研究員 (90781766)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | からゆきさん / 戦前日本人移民 / 日本の植民地主義 / 海外に伝わる日本の歌 / 記憶の政治学 / オントロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年5月、マレーシアの華文独立学校音楽教師研修に講師として招かれ、「Detecting Musical Linkages between Malaysia and Japan」と題してオンラインで講義を行った。その際に、からゆきさんに関する物語や音楽を紹介し、フィードバック等を通してマレーシアで現在からゆきさんがどのように受け止められているか理解を深められた。また、7月にはオンラインで行われた国際伝統音楽評議会の東南アジア大会で、「Lullaby, Travel, Nostalgia: Intersectional Soundscapes of Migrant Prostitutes in Southeast Asia」と題した発表を行った。ここでも有意義な意見交換等を行うことができた。特に、からゆきさんの問題を、現代の東南アジアにもみられる移住する娼婦や女性たちの問題とリンクさせる研究には、大きな可能性が見られる。この研究では、からゆきさんの研究を歴史的な問題で終わらせることなく、グローバル化の現代にある諸問題とリンクさせて議論してゆきたい。この学会で発表した論文は、2022年4月に国立台南芸術大学から出版された『Proceedings of the 6th Symposium ICTM Study Group on Performing Arts of Southeast Asia』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
「研究実績の概要」にも書いたが、オンラインでの発表や交流は何とか可能だが、現地調査を主軸とするこの研究の性質上、進捗は大幅に遅れている。コロナの影響で、予定していたオーストラリアやザンジバルでの現地調査の目処は全く立っていない。また、東南アジアや香港、からゆきさんが舞台に立っていたと思われる、中国瀋陽での研究もほぼできない状況である。日本国内での現地調査や文献調査ですら、コロナの影響でままならない。しかし、このまま研究を進めないわけにはいかないので、理論的な枠組みを先行して構築することにした。具体的には、文化人類学で近年研究が進んでいるオントロジーに関する議論の適用を考えている。多くのオントロジーの議論では、多層的な世界の理解とアプローチが議論の中心とされるが、この研究では音楽、そしてPerformingをキーワードとして、多層的な世界をどのように繋ぐことができるのかを考えていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」にも書いたが、今年もコロナの影響で国内、海外ともに現地調査は難しいと思われる。そのため、先行して理論的な枠組みを構築させることに集中したい。本来、現地調査で集めたマテリアルを精査したのちに理論的枠組みを作る方が理にかなっているのだが、今まで集めた資料等で十分研究の方向性は確立されている。つまり、この研究では音楽、そしてPerformingをキーワードとして、からゆきさんの研究を単なる歴史研究に終わらせることなく、多層的な世界をどのように繋ぐことができるのかを考えていきたい。ここで重要になるのが、国立台南芸術大学教授で同大学大学院民族音楽学研究所所長でもある、Made Mantle Hood教授が主張する「Performing Ontologies 」である。この考えは、それぞれ独立した存在であると考えられるオントロジーが、Performanceによってどのように繋がることができるのかを説くもので、哲学的、概念的に考えられることの多いオントロジーに「身体性、体感性」を付与し、音楽や踊りといった生身の経験を通してオントロジー考えるという画期的なものである。民族音楽学ではすでに多くの音楽体系を異なるオントロジーとして考えることは一般的で、その意味で文化人類学に一歩先んており、そこにさらにPerformingの概念を付与することで、 オントロジーの研究自体にも大きく寄与できるものと考えている。今年の7月にポルトガルで行われる国際伝統音楽評議会の世界大会では、「PERFORMING ONTOLOGIES IN INSULAR ASIAN AND SOUTHEAST ASIAN PERFORMING ARTS」と題して、Hood教授とパネルを組み発表する予定で、その後も共同研究を続けていきたい。
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Causes of Carryover |
進捗状況にも書いたが、現地調査を主軸とするこの研究の性質上、研究が大幅に遅れている。コロナの影響で、予定していたオーストラリアやザンジバル、東南アジアや香港、中国瀋陽での現地調査もほぼ不可能であるため、旅費の計上ができない状況である。しかし、このまま待っていても仕方がないので、現地調査で使用する機材を補充し、コロナが明け海外渡航が可能になったときにスムーズに現地調査が行えるよう準備している。本年度も厳しい状況が続いているが、「withコロナ」の考えも広がり始め、少しずつだが人の往来も増加している。本年度は国際伝統音楽評議会の世界大会がポルトガルのリズボンで行われるため、そこには参加を予定していて、次年度使用額はその予算にも充てたいと思っている。また、今後、海外渡航がより自由に行えるようになった時のために、万全の状態で現地調査が行えるよう準備を進めていきたい。
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Research Products
(3 results)