2019 Fiscal Year Research-status Report
ヴォーリズの諸活動にみる音楽の諸相―日本の教養としての音楽文化を考える―
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19K12988
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
齊藤 紀子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (60769735)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | W. M. ヴォーリズ / 音楽 / リベラル・アーツ / 教養 / O. ミーズナー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に則り、①ヴォーリズの様々な活動の記録資料における音楽の位置づけと演奏実践の具体事例、②国内外に向けて報告されたヴォーリズの 活動と音楽実践、③アメリカでの学習・生活経験と来日後の日米の教育や文化をめぐる情報収集、の3つの文献資料調査を始めた。これまでに、滋賀県近江八幡市内や京都府の同志社大学、日本文化研究センターで近江兄弟社、清友幼稚園、近江勤労女学校に関する資料を、米国コロラド州のデンバーやコロラド・スプリングスでデンバー東高等学校やコロラド・スプリングスYMCAに関する記録資料を、米国議会図書館でアメリカの音楽教育に関する文献資料を収集している。 研究発表は、「近江セールズで販売されたミーズナー・ピアノ:ヴォーリズの諸活動における音楽を読みとく手がかりとして」というタイトルのもと、日本音楽教育学会第50回大会において口頭で発表した。3月には大正イマジュリィ学会第17回全国大会で「W. M. ヴォーリズが日本の家庭向けに販売した学校教育用ミーズナー製ピアノ:日米の広告比較から」の口頭発表を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、延期(開催時期は未定)となった。また、6月上旬には全米音楽教育連盟(NAfME、National Association for Music Education)の音楽教育史研究をテーマとするシンポジウム(Oxford Symposium on the History of Music Education)での発表を予定していたが、こちらもCOVID-19の影響を受け、来年6月に延期となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次の3点が挙げられる。第一に、ヴォーリズの教育活動や事業活動に関する調査から、本研究の遂行に必要な資料として、(音楽会など音楽の実践を主たる目的とする行事に限らず)学校生活において幅広く音楽がとり入れられていることを示す具体的事例(ハイキングなどの校外学習で歌を歌う、集会で合唱するなど)を収集できた。 第二に、ヴォーリズが青年時代を過ごしたコロラド州で行った調査では、コロラド・スプリングスYMCAにヴォーリズの個人名を示す記録を見出せなかったが、同地のYMCAの発行物の構成が、ヴォーリズが来日後に作成した近江ミッションの刊行物の構成と類似していることがわかった。ヴォーリズが確かにYMCAに所属していたことをうかがわせる資料として位置づけられる。ヴォーリズの諸活動を支える重要なものとして日英二言語で綴られた活動報告があり、大学では文芸部に所属して大学新聞の編集に携わっていたことがその背景として明らかにされている。今回の調査では、ヴォーリズが卒業生を代表してスピーチをしていたことを示すデンバー東高等学校の卒業記念発表会のプログラムが見つかった。 第三に、全米音楽教育連盟(NAfME、National Association for Music Education)に入会し、当時のアメリカの音楽教育状況や最新の音楽教育史研究をオンラインで入手できるようになった。ヴォーリズが日本で販売したミーズナー製ピアノを考案したO. ミーズナーがNAfMEの前身である全米音楽指導者会議(Music Supervisors National Conference)の創設メンバーの1人であり、後に会長も務めた人物である。ミーズナーが掲げた理念は現代の教育にもその精神が受け継がれており、本調査の全体を総括する際に欠かせない素材の1つとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年次は、5月にヴォーリズの妻満喜子が視察したアメリカの教育研究所としてイェール大学やコロンビア大学で調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大の影響を受けて延期することとした。6月に開催予定の全米音楽教育連盟(NAfME、National Association for Music Education)の音楽教育史研究をテーマとするシンポジウム(Oxford Symposium on the History of Music Education)に研究発表を申し込み、受理されていたが、こちらも、COVID-19の影響を受け、来年6月に延期されることとなった。 本研究を遂行するためには、滋賀県近江八幡市を中心とする関西圏とアメリカで計画通りに文献資料調査を行う必要がある。4月7日に日本政府が発令した緊急事態宣言が5月26日に解除されたものの、宿泊を伴う調査をいつ再開できるかによって、進捗状況に遅れが生じることを懸念している。 現在は、自宅でもできることとして次の3点を行っている。①アメリカの大学図書館の司書の協力を得て、リモート操作が可能な一部の資料を開示してもらう。②全体の総括に備え、アメリカの教育に関する動向や日本への受容、幅広く使われるようになったリベラル・アーツの実践例に関する先行研究を読み進める。それにより、リベラル・アーツや教養の語義を再考し、日米の教育運動とヴォーリズの教育活動との類似点や相違点を考える。③秋以降に着手する予定であった論文の執筆を部分的に始める。
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Research Products
(2 results)