2019 Fiscal Year Research-status Report
パリ・オペラ座におけるバレエ伴奏者の職業化と楽器の変遷(1807-1939)
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19K12995
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Research Institution | Musashino Academia Musicae |
Principal Investigator |
永井 玉藻 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 講師 (80836940)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バレエ / 伴奏者 / フランス / パリ・オペラ座 / 19世紀 / 演奏者 / 社会的地位 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である2019年度には、交付申請書に記載した研究実施計画の通り、まずフランス国立文書館ピエルフィット館と、フランス国立図書館オペラ座館での調査を行った。この調査は2019年7月19日から8月2日の日程と、2020年2月7日から14日の2回実施することができ、この2回の調査実施によって、これまで不明確だったバレエ伴奏者の勤務実態を、より具体的に明らかにすることが出来た。 2019年夏の調査では、フランス国立文書館の史料番号AJ13/453-455, 478, 489, 645-661, 669, 1003A- 1005B, 1184-1185III, 1213-1270を中心に、人員記録を洗い出しを行った。またフランス国立図書館オペラ座館では、19世紀のパリ・オペラ座で初演された代表的なバレエ作品のうち、《ラ・シルフィード》、《海賊》、《泉》などのオーケストラ・パート譜の調査を行ったことで、パート譜セットに含まれるバレエ伴奏者用の楽譜の撮影に成功した。 一方、2020年2月の調査では、国立文書館が所蔵する19世紀後半のオペラ座における部門別・月別の会計簿を中心に調査した。これにより、研究課題申請以前に存在を確認できていたバレエ伴奏者のうちの数名について、より詳細な雇用の時期や雇用形態を確認することが出来た。また、解明すべき点の一つである、弦楽器からピアノ伴奏への移行の時期についても、会計簿の給与支払い記録を追うことによって、比較的狭い範囲での時期を特定することが可能であることが判明した。これらの記録は随時Excelファイルに転記し、研究最終年度に行うデータベース構築のための準備としている。 同時に、19世紀から20世紀にかけてのバレエに関する文献講読を行い、バレエ伴奏の歴史的・社会的文脈への理解を深めることが出来ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年度初頭には、19世紀初頭のパリ・オペラ座でダンサーとして活動し、その後ドイツのシュトゥットガルトでバレエ教師を勤めたミシェル・サン=レオンの「ダンスの練習帖」に関する論考を出版出来た。この論考は、バレエの稽古伴奏の具体的な音楽例について公にすることが出来た点で、本研究の実施における非常に良い進展の一つになったと言える。 2020年2月の調査により、調査を要する資料の点数が当初予定していたよりも増えたため、2020年度に実施する現地での資料調査は必須である。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、現在、フランスでの滞在許可証を保持しない日本国籍保持者のフランス入国は禁止されており、2020年度の調査予定の見通しが全く立たないのが現状である。この点に関しては、海外での資料調査を必要とする全ての研究者にとって、未曾有のダメージと言えよう。 とはいえ、本研究の場合は、2019年度に行えた2回の調査によってこれから精査すべき資料の範囲は極めて明確になっている。特に、2020年2月の調査で、雇用契約書やオペラ座内の規則集だけでなく、アーティストへの支払い記録を継続して見ていく必要が明らかになった点は、本研究の実施にとって非常に大きな前進である。したがって、フランスへの入国が再開されるまでは、現在までに収集している調査結果を精査・整理することにつとめ、研究成果発信の機会には積極的な反応ができるよう、心がけていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記した研究実施計画の通り、2020年度には引き続き、バレエ文献・史料閲読を通してバレエ伴奏の歴史的・社会的文脈への理解を深める。また、2020年2月の調査で撮影した資料の整理を進め、Excelファイルへのデータ入力も継続して行う。 申請時の研究実施計画においては、2020年の夏季および冬季には約2週間ずつパリに滞在して国立文書館およびオペラ座図書館へ赴き、1850年から1939年の伴奏者情報、および伴奏者用譜面を撮影する予定でいたが、新型コロナウィルス感染拡大のため、フランスでの滞在許可証を保持しない外国籍国民は、現在フランス領域内に入国することが出来ない。さらに、国立文書館や国立図書館の勤務人員数も制限されている。したがって、フランス国内への入国制限が解除されるまでは、遠隔地からの複写サービスなどを適宜利用し、現地での調査での代替手段とする必要があると思われる。 このように、柔軟に研究調査などを行いつつ、2020年11月14日と15日に行われる予定の日本音楽学会全国大会にて、現時点での研究成果を発表することを考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度の研究においては、フランス国立図書館や国立古文書館などでの資料収集において、デジタルデータの作成を当該館に請求する必要がなかっため、その分の残金が発生している。また、2020年度も渡航調査や資料の購入など、当初の予定通りの出金が予想されるため、使用額が生じている。 2020年度には、フランスへの入国制限が解除され次第、前年度と同じく渡航調査を行う。渡航が制限される期間には、フランス国立図書館や国立古文書館が提供するオンラインデジタルデータコピーのサービスを使用して、資料の収集を継続する。また、タブレットなどの物品のほか、19世紀以降のフランスにおけるバレエ音楽関連専門書籍、オペラ座関連のフランス語文献、楽譜などを購入し、バレエ伴奏の歴史的・社会的文脈への理解を深める。
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