2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ・ゴシックにおける王権表象の変遷――建築・彫刻・版画
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19K12996
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
岩谷 秋美 大妻女子大学, 比較文化学部, 准教授 (10735541)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドイツ / ゴシック建築 / ニュルンベルク |
Outline of Annual Research Achievements |
三年目となる2021年度は、前年度に引き続き、当初の計画を変更し実施した。すなわち新型コロナウイルス感染症流行によりヨーロッパ各国で実施を予定していた現地調査を遂行することができなかったため、初年度に行ったドイツ・オーストリアでの調査成果と、海外から新たに入手した文献や国内にある資料に基づき研究を進めた。 本年度は、ニュルンベルクの聖母聖堂における扉口彫刻を主要な研究対象とした。本聖堂は、14世紀中葉に建設された小さなゴシック建築である。そもそもニュルンベルクは神聖ローマ帝国において重要な都市のひとつであり、そのため本聖堂の造営には皇帝カール四世も積極的に関与していた。本聖堂西正面は、ドイツ中世聖堂に伝統的な西構え(Westwerk)のごとき半ば独立した建造物となっており、皇帝カール四世の時代にその上階は戴冠に関連する王権表章の展示空間とされ、さらに西正面の外壁中央に鷲の紋章が掲げられている。王権との密接な関係性は、こうした建築的プログラムだけでなく、西正面扉口および聖堂扉口に観察される、洗礼者ヨハネとその父ザカリアを基軸とし、〈聖母戴冠〉を頂点とする彫刻の図像プログラムにも確認された。以上を踏まえ、本聖堂はゴシック期のドイツ語圏における王権表象を考察する上で重要な作例と考えられ、本研究が特に注目しているハプスブルク家の芸術施策にも少なからぬ影響を与えたと推察される。以上の成果の一部を論文にまとめ、刊行した(2021年12月、2022年2月)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度に予定していた海外調査は、新型コロナウイルス感染症流行のため計画中止を余儀なくされた。そのため計画を変更し、オンラインや郵送などで入手できる資料や図版をできるかぎり収集し、これに基づき研究を進めた。その結果、一定程度の成果を得ることができ、論文等を公刊できた。だが当初の目標を十分に達成できたとは言い難く、そのため、進捗状況を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでドイツ・オーストリアを中心とした考察であった。次年度はフランスにおける図像表現に着目し、研究を進めたい。また、次年度も引き続き海外調査が困難であることが予想されるため、これまでに収集した資料を活用するとともに、海外からの文献や写真資料を積極的に入手することで、これを補いたい。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していた海外調査は、新型コロナウイルス感染症流行のため中止した。そのため、海外調査時に予定していた旅費、資料購入費、謝金の項目において、未使用額が生じた。次年度も、感染症流行の状況に応じ、海外調査を十分に遂行できない可能性があると予想される。その場合は、適宜、文献や写真資料を購入する予定である。
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