2022 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ・ゴシックにおける王権表象の変遷――建築・彫刻・版画
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19K12996
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
岩谷 秋美 大妻女子大学, 比較文化学部, 准教授 (10735541)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ゴシック / ゴシック大聖堂 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、ドイツとフランスの王権表象に着目した。中でも、ドイツ・ゴシックの君主へ影響を与えたフランス・ゴシックの作品の一例として、パリのサント=シャペルに注目し考察した。パリのサント=シャペルは、聖王ルイが建設した宮廷礼拝堂である。ステンドグラスに囲まれた光り輝く空間効果が特徴であり、13世紀のレイヨナン・ゴシックの代表作に位置付けられる。本研究では、とりわけ建築図像の側面に着目した。その結果、本礼拝堂が、カロリング朝のアーヘン宮廷礼拝堂に由来するドイツの伝統を、大幅に改変しながらもその本質を継承しているとの結論に至った。こうしたドイツとの親和性を有していたからこそ、パリのサント=シャペルはドイツ・ゴシックに強い影響を与えたと考えられる。 研究期間全体を通じて実施した研究の主な成果として、さらに次の二点があげられる。第一に、建築図像の継承と改変を切り口としたアプローチにより、ドイツ・ゴシックが多様化する過程を明示した。その一例は、14世紀中葉におけるウィーンのザンクト・シュテファン聖堂の造営である。ハプスブルク家のルードルフ四世は、本聖堂を造営する際、ロマネスク期ドイツの皇帝大聖堂(Kaiserdom)を手本にして、ドイツに伝統的な建築図像を導入した。このように伝統と新規性を融合させることで、ドイツ・ゴシックは多様化したのである。 第二に、フランスに由来する図像プログラムの改変の研究である。これに関しては、皇帝カール四世の時代に造営された、ニュルンベルクの聖母聖堂付属彫刻が、その一例となる。注目すべきことに、本聖堂西正面の玄関廊ヴォールトには、〈聖母戴冠〉が表される。これは、フランス国王の戴冠聖堂であるランス大聖堂に由来する図像表現を、ドイツ中世聖堂に伝統的な西構え(Westwerk)の空間内で発展させたものとして解釈されよう。
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