2019 Fiscal Year Research-status Report
西欧中世の『フィシオログス』写本―挿絵の展開と受容に関する美術史的研究
Project/Area Number |
19K12999
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
川瀬 瑞絵 (長友瑞絵) 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (60422523)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 西洋中世美術 / キリスト教美術 / 写本挿絵 / 博物誌 / ベスティアリ / 動物シンボリズム / 聖書と象徴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度にあたる令和元年度は、キリスト教的博物誌『フィシオログス』写本のうち、主たる研究対象となる、Dicita Chrysostomi版(DC版)、Phillipe de Thaon版(PT版)の写本について図版収集および海外図書館調査を行い、挿絵を重点に置いた基礎情報からなるデータベース作成に着手し、分析を進めた。 『フィシオログス』写本の従来研究ではテキストの系譜分析が重要視され、そのためにDC版やPT版については、テキスト性質の違いから、興味深い一定の挿絵サイクルが認められるにも拘わらず、考察対象から除外されていた。したがって当該研究では、『フィシオログス』写本について、これら2つの版の写本群を新たに考察対象に取り上げ、美術史的基礎情報を備えたデータベースを作成することが第一の最終目標となる。 本年度はDC版やPT版のデータベース作成を進めると同時に、特にDC版のうち最古の写本群について考察した。そのうちニューヨーク、ピアポント・モーガン図書館蔵の写本(M.832)やウィーン国立図書館蔵の写本(Cod. Vind. 1010)は共に12世紀に制作され、共通する挿絵サイクルや、他の『フィシオログス』写本には見られない特徴的な図像を有することが確認された。具体的には、抱き合う2匹のハイエナの図像、これまでにない城塞のような建物とともに描かれるゾウの図像などである。これらの二写本の制作地、所蔵地はいずれも修道院であり、今後対応するテキストとも照らし合わせつつ、考察された特殊図像の生成理由を探りたい。DC版のテキストの成立は1000年頃とされているが、ムルバッハ修道院の9世紀の目録にはすでにそのタイトルが記されている。当初から挿絵が付けられていたのかは不明とされており、現存する初期の挿絵入りDC版写本の分析を進め、挿絵サイクルの系統や成立背景について解明したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の計画書に基づき、海外図書館調査や対象写本の収集、およびデータ分析を概ね順調に進められているため。また本課題関連展覧会閲覧による最新情報も入手できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究計画に大きな変更はない。引き続きDicita Chrysostomi版(DC版)、Phillipe de Thaon版(PT版)の『フィシオログス』写本について、未入手の図版収集および海外図書館調査を行う。各写本の比較分析を進め、データベースの基礎部分の完成を目指したい。また並行して、DC版、PT版のテキストについても改めて分析を進める。写本挿絵の図像成立に影響を与えた可能性のあるテキストの基礎情報およびその変化を確認しておくことで、21年度、22年度における挿絵の考察の基盤としたい。
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Causes of Carryover |
年度末に予定していた海外図書館調査を延期したため。また海外図書館所蔵写本の図版は過去に図版化されていないものが多く、写真請求の申請は受理されたが、申請先の図書館や研究所の繁忙状況に応じ撮影と発送までに時間がかかっているため。
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