2020 Fiscal Year Research-status Report
西欧中世の『フィシオログス』写本―挿絵の展開と受容に関する美術史的研究
Project/Area Number |
19K12999
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
川瀬 瑞絵 (長友瑞絵) 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (60422523)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 西洋中世美術 / キリスト教美術 / 写本挿絵 / 博物誌 / ベスティアリ / 動物シンボリズム / 聖書と象徴 / 幻想の動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の2年目にあたる令和2年度も、キリスト教的博物誌『フィシオログス』写本のうち、主たる研究対象となる、Dicita Chrysostomi版(DC版)、Phillipe de Thaon版(PT版)の写本を中心に、図版収集を継続し、挿絵を重点に置いたデータベースの作成と分析を進めた。 令和2年度では前年度で得られた最古のDC版写本(ニューヨーク、ピアポント・モーガン図書館蔵写本(M.832)やウィーン国立図書館蔵写本(Cod. Vind. 1010))の調査結果をもとに、それらの挿絵サイクルおよび来歴情報について、さらに現地調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスによる所蔵先の閉館に伴い調査延期となったため、DC版の機能や受容の分析を先行して行った。 機能分析と言う点で重要な手がかりとして注目されたのは、いわゆる中世の手本帖(モデルブック)の存在である。例えばウィーン国立図書館所蔵『ラインの手本帖』("Reiner Musterbuch" Cod. Vind. 507)にはDC版『フィシオログス』テキストが収録されており、それは本研究の調査対象となっている上掲のモーガン図書館所蔵写本(M.832)と共通の系譜に当たるものであるが、『フィシオログス』と共に記憶術で用いられたという形象アルファベットも収録されていた。このことから、機能分析にあたってはコンテンツ、すなわち、DC版『フィシオログス』がどのようなテキストと共に写本に収録されているか、という点にも着目することが重要であることを認識した。やはりDC版の系統である、『ミルシュタットのフィシオログス』(クラーゲンフルト、ケルンテン州立図書館, Ms. 6/19)では、創世記の挿絵付きテキストと共に収録されていることから、今後集めたデータをもとに、他のコンテンツとの関わりも視点に加え、さらに分析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の計画書に基づき、対象写本の収集、およびデータ分析を進めているものの、令和2年度については新型コロナウイルスによる所蔵先の海外図書館閉館に伴い、一部資料の入手が困難となったほか、現地調査が延期となったため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度についても研究計画に大きな変更はないが、当初初年度と次年度で終了見込みであった図版収集は、新型コロナウイルス流行に伴う海外図書館の休館により遅れが生じているため、Dicita Chrysostomi版(DC版)、Phillipe de Thaon版(PT版)および、関連写本の収集を令和3年度においても継続し、データベースの基礎部分の完成を目指す。また海外図書館・美術館の再開後には現地調査を予定している。なおテキスト研究に関しても最新の情報を収集し、令和3年度・令和4年度における挿絵の考察時に対照できるよう、再度系譜を整理する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、海外図書館から入手する予定だった物品(主に作品の画像)の納入が延期となり、支払いが未了となっていること、また令和2年度に予定していた海外図書館や美術館における現地調査も未了となっているため旅費が発生しなかった。令和3年度においては感染が収束し、海外図書館の再開が見込まれるため、速やかに画像の収集、および現地調査を進める予定である。
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