2021 Fiscal Year Research-status Report
Formation and Institutionalisation of the value system in the 20th Century Avant-Garde Art
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19K13003
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
平田 裕美 (松井裕美) 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40774500)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 美術教育 / キュビスム / ヌーヴォー・レアリスム / 作者 / レアリスム |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は① 前衛芸術家による美術教育が価値形成に与えた影響についての検討 ②「作者性」の概念の揺らぎと美術制度との関わり ③ レアリスム概念の変遷と価値転換 の3点にそくして研究を進めた。 ①においては、とりわけキュビスムの画家アルベール・グレーズによる美術教育について、一次資料を収集しつつ調査を進めた。グレーズは、1930年代以降、独自のキリスト教信仰を美術教育に反映させていくなかで、集団的な生活や制作への関心を高め、宗教的な画題の作品も描くようになっていった。そうした試みが単なる「秩序への回帰」では捉えられないような革新性も備えていたことについては、論集『宗教遺産テクスト学の創成』(木俣元一・近本謙介編)に寄稿した論文「キュビスムと聖性―アルベール・グレーズのキリスト教信仰と失われた宗教壁画」(2022年3月)および、『美術フォーラム21 第45号前衛特集』掲載予定の論文「前衛芸術とポスト・ヒストリー キュビスムにおける錯綜する古典という参照点」において論じた。 ②については、フランスの60年代の前衛運動において重要な役割を果たしたヌーヴォー・レアリスムに注目し、とりわけイヴ・クラインのパフォーマンスとそれを取り巻く言説を分析した結果を、『聖性の物質性』(木俣元一・佐々木重洋・水野千依編)に寄稿した論文「色彩における物質性と聖性──イヴ・クラインの芸術実践における聖別と涜神のあわい」にまとめた。 ③については、キュビスムやヌーヴォー・レアリスムに代表されるような「新しいレアリスム」を主張した芸術運動の背景にある文学的・美学的議論について調査した。その成果については、今後『レアリスム再考』と題した論集の序章にまとめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、産休育休の取得に加え、コロナ禍のために海外での調査が叶わず、当初予定していた海外での調査は実施することができなかった。とはいえ、国内から収集できる範囲で収集した資料の中から、いくつかの重要な知見を得ることができた。たとえば、【研究実績の概要】の①で示した研究において、グレーズの理論書を読解し、objet, sujet(「客観/主観」「客体/主体」)という対概念が、重要な鍵語であることが判明した。グレーズはこの概念を、対概念ではなく互いに調和する概念として捉え、ルネサンス以降の近代的な作者像を超克する、中世の職人に範をとる作り手の創造性に接近するものとして理解した。そこで30年代以降のobjet, sujetといった概念の重要性について調査を開始した。 さらに2021年度は、この概念について、とりわけシュルレアリスムの芸術家の作品を中心に扱う松岡佳世の著書『ハンス・ベルメール 身体イメージの解剖学』の書評会「非合理な身体のための解剖学 :ハンス・ベルメールと〈交換可能性〉」を実施した。ベルメールは、球体関節を用いた人形制作で知られているが、実のところその芸術実践は、人形制作にとどまらず、同時代の心理学や思想から着想を得た理論的著述や、実験的な身体像の素描など、多岐にわたる。松岡氏は著書『ハンス・ベルメール 身体イメージの解剖学』(2021年、水声社)において、そうした取り組みの中でも、彼にとっての身体イメージが、単なる表現主題ではなく、内部と外部、女性と男性、人間とオブジェの交換可能性と反転可能性を探るメディアとして機能したことを明らかにした。2022年1月27日に開催された本講演会は、そうした成果について、とりわけ「客体/主体」の交換可能性をテーマに据え解説するものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は①前衛芸術家による美術教育が価値形成に与えた影響についての検討 について、アンドレ・ロートやフェルナン・レジェ、アメデ・オザンファンなども視野に入れた研究調査を本格的に行い、そこで教育を受けた日本人芸術家についても資料調査を行う。また ②「作者性」の概念の揺らぎと美術制度との関わり については、とりわけ非西洋圏の芸術家や女性芸術家といったマージナルな立場から政策を行う芸術家たちの実践に着目した研究を進める。③ レアリスム概念の変遷と価値転換 については、写真や映画といったメディア、ドキュメンタリーといったジャンルにおける言説にも注意を向けながら、文学・美術におけるそれとの比較検討を試み、レアリスムの概念がどのように前衛の価値形成や手法の刷新に影響を与えてきたのかを明らかにした上で、その成果を論集としてまとめる。
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Causes of Carryover |
2021年2月から7月まで育休・産休を取得したため、その間研究を中断した。またコロナ禍のため海外出張が叶わず、その分の経費を次年度に持ち越すことになった。次年度は、可能であれば海外調査を行うが、状況次第で難しい場合には、日本で入手できる一時資料の獲得に使用し、その成果を研究論文として発表する。
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Research Products
(4 results)