2019 Fiscal Year Research-status Report
非破壊光学調査による西洋近代絵画の技法解明と保存修復来歴の再構成
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19K13010
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
藤本 かおり (田口かおり) 東海大学, 創造科学技術研究機構, 特任講師 (60739986)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光学調査 / 保存修復 / 技法調査 / 蛍光エックス線 / 現代美術 / 近代絵画 / アーカイヴ |
Outline of Annual Research Achievements |
立ち上がりの1年目にあたる2019年は、堀場インステック、ニコンインステック、日本電子株式会社などから主な協力を得て、日本国内の印象派のコレクション及び日本の近代絵画について、総合的な調査を実施した。初年度に力点を置いたのは、フィンセント・ファン・ゴッホ作品の技法解明研究であり、ここでは国内美術館のほか、スイスのヴィンタートゥール美術館、オランダのゴッホ美術館などとの共同研究を軸に、日本に収蔵されているゴッホ作品の来歴と制作方法について調査を進めてきた。具体的には、ゴッホの油画のエックス線写真分析と蛍光エックス線分析、赤外線分析、紫外線分析などを通じ、来歴の再考、修復歴の精査、絵具の特定を目指した。調査過程においては、ゴッホ美術館のルイス・ヴァン・ティルボルフ教授らと連携し、共同で画布の年代の特定を進めるなどした。また、その研究成果を広く公開するための国際シンポジウム「芸術作品と科学」を開催し、ゲストスピーカーをゴッホ美術館、大英博物館、メルボルン大学などから招聘し、情報交換を行い、今後の同分野の研究の基礎を構築した。 上記の国際研究と同時に、大規模な補彩や洗浄が施 され大きく外観が変化した近代美術についての総合調査を国内外で進め、いくつかの作品群について詳細なタイムラインを再構成した。具体的には介入当時の光学写真と当時の言説を収集して統合し、介入前後での構造や外観の変化、収蔵状況の変遷を精査した。 また、2019年4月24日より京都大学総合博物館において現代美術の展覧会「タイムラインー時間に触れるためのいくつかの方法」を開催し、現代美術の組成を示す光学調査記録を資料展示するなどの試みを通じ、新たなアーカイヴ活用の形を模索した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、非破壊光学調査によって、西洋近代絵画の制作技法と修復歴を解明し、制作から現代に至るまでの経年遍歴=タイムラインを再構成するとともに、美術史における作品解釈の方法論を更新することを目的としてきた。1年目の目標として設定していた日本の美術館に収蔵されている近代絵画の光学調査を、当初の予定していた事例以上に進めることができ、また、その過程において、文献調査と情報収集を基盤とした美術史・歴史学的研究も順調に積み重ねてきた。また、作品の「生」の過程を新たな文脈を持って多層的に読み解くことを狙いとする展覧会「タイムラインー時間に触れるためのいくつかの方法」を開催できたことも、2019年度の大きな達成の一つである。以上より、個々の作品に望ましい収蔵や展示、保存修復の在り方を検証するための基礎研究を、実践と理論の双極から推進できたと考えており、研究は、現在、おおむね前年度にたてた研究計画通り進行していることを報告する。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目にあたる2020年は、1年目の研究の拡大をはかりながら成果を広く公開するための方策をとることを予定している。 まず、前年度の研究成果について書籍にまとめて発刊を目指すほか、日本に収蔵される近代絵画の非破壊調査を引き続きいくつかのケーススタディを軸に進めていく。作品群を収蔵する美術館と連携しながら総合調査を行うほか、近代絵画の来歴調査を進めている国内外の専門家へのインタビューを積極的に行い、方法論とその公開方法について情報交換を行う。 インタビュイーとしてロンドン・ナショナル・ギャラリーのキュレーター、レジストラーを予定しており、すでに了解を得ている。これら研究成果の公開の場として、本年も昨年に引き続き国際シンポジウムの開催を予定していたが、COVID-19 の世界的な流行により開催が困難になる可能性がある。海外からの専門家の招聘が不可となった場合には、意見交換の場をオンラインミーティングなどに変更し、可能な限り研究計画に沿った実績の積み重ねを目指す。
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Research Products
(15 results)