2020 Fiscal Year Research-status Report
非破壊光学調査による西洋近代絵画の技法解明と保存修復来歴の再構成
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19K13010
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
藤本 かおり (田口かおり) 東海大学, 教養学部, 講師 (60739986)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文化財保存 / 保存修復 / 現代美術 / 光学調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はコロナ禍に見舞われ、予定していた国外美術館との共同研究の実施に支障が生じたものの、国内においては複数の美術館との協力のもとで収蔵作品の分析を実施することができ、またその内容について情報公開を進めてきた。具体的な成果として、1)高知県立美術館のアンゼルム・キーファー 《アタノール》について、作家が本作品に使用したと思われる絵具と制作工程の一部を光学調査で明らかにしその情報を公開したこと 2)東京国立近代美術館で開催された「ピーター・ドイグ展」に出展された諸作品についての考察を深め、その成果を美術館のニュースレターや配布物、また、オンライン上の美術イベントや研究会で公開したこと 3)2019年に開催した現代美術の展覧会『タイムライン ─時間に触れるためのいくつかの方法』のアーカイヴ書籍を出版し、現代美術の保存、修復、素材分析、アーカイヴなどの問題について、広く討議する場をもうけたこと を挙げる。1)および2)では、制作時から作品がどのような変化を遂げているのかを組成分析によって明らかにするとともに、欠損や退色の進行度を解析することを試み、結果、作品についての新たな知見を獲得することに成功した。また、3)において、近現代美術の織りなす生─時間軸─の在り方を、作品の組成や経年変化、保存、アーカイヴなど、複数の視座から捉え直すことを目指すにあたって光学分析が果たした役割は大きく、近現代に制作された作品の組成をめぐる今後の継続的な調査の土台をつくることができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記研究実績の概要でも述べたように、コロナ禍において、本研究の独自性である国際的な研究体制と国外美術館との連携の実現をはかることが難しい局面があった。ただし、テート美術館(英)、ヴォルフスブルク美術館(獨)、ゴッホ美術館(蘭)、ボストン美術館(米)など、本研究を実施する上で協力を依頼している各美術館の担当者とはオンライン上でのミーティングや討議を通じ、今後の継続的な研究実施のための方策を共に探っている。また、渡航しての調査が不可能な状況下にあって、各国の美術館の保存修復部門が感染症への対策を余儀されるなか、どのような動き方をしているのか(運営状況、調査の実施状況、休館時の作品メンテナンスなど)についてのヒアリングを重ねるなどの試みを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は昨年度に引き続きコロナ感染症による影響下にあり、渡航しての調査やシンポジウムの実施などがおそらく難しいと思われる。そのため、オンラインでのシンポジウムの実施などを計画しているほか、国内美術館において可能な限りの調査を実施しその成果を公開することを目指す。具体的には美術館に調査機器を搬入し分析を実施する機会に加え、東海大学イメージングセンター及び技術共同管理室においては作品片をお預かりし分析するなど、様々な調査方法を併用することで作品の修復歴や技法解明のための研究を幅広く重ねていく。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染症の拡大により、国外研究機関との共同研究や渡航しての研究実施、美術館での調査などが一部実施不可能となり、予算を次年度に繰り越して再度日程を調整し、研究を実施することとなった。本年度は昨年度に計画していた作品調査や分析を実施しつつ、本年度に予定をしている国内作品の調査分析を進める。ただし、感染状況の拡大をみて、計画内容はこまめに調整を行う。
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Research Products
(20 results)