2019 Fiscal Year Research-status Report
15世紀北イタリア宮廷におけるヘラクレス図像の受容の様相
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19K13012
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小松原 郁 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (20803125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 宮廷美術 / ルネサンス / 美術史 / 西洋美術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、15世紀北イタリアの諸宮廷におけるヘラクレス図像の受容と伝播の様相とその意味を明らかにするために各地の室内装飾および墓碑、墓廟におけるヘラクレス図像の調査および資料収集を行い、その分析を進めた。 具体的には、11月11日~23日にかけて、イタリアにて実地調査と資料収集を行った。特に、世俗装飾の貴重な残存例であるフェッラーラのパラッツォ・パラディーゾ内ヘラクレスの間の装飾と、墓廟の装飾図像においてヘラクレスが重要な役割を果たしているベルガモのコッレール家礼拝堂の図像調査を集中的に行い、また、比較対象としてフィレンツェのポルタ・デッラ・マンドルラの浮彫や、ローマのパラッツォ・ヴェネツィア内《ヘラクレスの間》などのヘラクレス図像の調査を行った。さらに、現在では失われてしまったミラノ及びナポリにおけるヘラクレス図像を含む《著名人列伝》の壁画プログラムの当時の状態の再構築と図像の意味内容の解釈に向けて、サルッツォのマンタ城内の《九賢人》の壁画およびフォリーニョのパラッツォ・トリンチ内の《九賢人》及び《著名人たち》の壁画に着目し、壁画の図像構成、作品の様式及び銘文についての調査を行った。フィレンツェにおいては、マックス・プランク美術史研究所図書館にて専門的な文献資料の収集を行った。 文献資料の再検討や実地調査に基づいた図像の分析からは、15世紀の北イタリア宮廷におけるヘラクレスのイメージの重要な源泉として、14世紀ナポリのアンジュー家周辺において制作された彩色写本や、著名人を主題とした壁画におけるヘラクレス図像の重要性が確認された。特に家系の象徴的祖先としての位置づけという点で、『王国頌詞』や『アンジューの聖書』における図像の、15世紀におけるイメージ形成への影響の可能性を指摘した。その研究経過については、12月14日に開催されたルネサンス研究会において口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
11月の実地調査で、図像調査および資料収集を予定通り遂行し、必要な情報を収集することができた。また、研究会での口頭発表により研究経過の報告と意見交換を行い、今後の論文化に向けて問題点を確認することができた。 図像の分析を進めていく上で、当初美徳の寓意像との関連や冥府下りのテーマとの関連を分析する予定であった部分については資料が不足しており、現在では失われてしまったミラノ及びナポリにおける《著名人列伝》の壁画のヘラクレス図像の重要性を鑑みて、著名人を主題とした壁画を考察対象に加え、その分析を優先する形に修正したが、それによって、君主の鑑としての位置づけと美徳の寓意としてのイメージ、さらに騎士道の英雄としてのイメージとの複雑な混交状況を明らかにすることができた。以上のことから、全体としては概ね予定通りに進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度に収集した図像の分析と文献資料の精読を進め、分析結果を論文化する。個々の事例のより詳しい影響関係や政治的背景、ナポリで制作された作品群からの北イタリア宮廷の家系の顕彰図像への影響関係を精査していくとともに、さらにセネカの『悲劇集』挿絵及び年代記や歴史物語における古代史のヘラクレスの描写の分析を深めることで、より包括的な全体像が再構成できるのではないかと考える。
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Causes of Carryover |
年度末に手配した書籍が郵便事故で不着だったため今年度改めて購入を予定している
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