2020 Fiscal Year Annual Research Report
15世紀北イタリア宮廷におけるヘラクレス図像の受容の様相
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19K13012
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小松原 郁 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (20803125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ルネサンス / 北イタリア / 宮廷美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、前年度に収集した図像の分析と文献資料の精読を進めた。14、15世紀に制作された『トロイア物語』などの歴史物語やセネカの『悲劇集』におけるヘラクレスの描写を分析し、15世紀の図像については冥府下りの主題との関連を考察した。北イタリアの図像については、以下の二つの類型に大別しその特徴を明らかにした。 (1)マントヴァ侯爵の居城内装飾《夫婦の間》ではオルフェウスとの対置により、運命に打ち勝つ力や統治者の美徳の象徴としてヘラクレスが強調されている。リミニのシジスモンド・マラテスタの注文作《祖先の墓》では、スキピオの冥府下りと関連づけて解釈される場面にヘラクレスの姿が確認される。また、スフォルツァ家墓廟であるチェルトーザ・ディ・パヴィアの正面浮彫や、ベルガモの傭兵隊長コッレール家の礼拝堂では原罪にたいする贖いとして位置づけられるとともに、自らの血統の正統性や武勲の象徴として挿入されている。ヘラクレスを象徴的祖先として位置づけ、統治者の美徳や力を寓意する表現は、14世紀ナポリ宮廷のために制作された図像の系譜に位置づけられるが、北イタリアの作例では冥府下りの関連が強調されていたり、他の神話主題との関連付けによって、より複雑な図像体系に組み込まれていることが確認された。 (2)フェッラーラ:ニッコロ三世の注文作パラッツォ・パラディーゾの《ヘラクレスの間》、ピエル・アンドレア・バッシの『ヘラクレスの功業』及び後の写本挿絵、またリオネッロ・デステのためのタペストリー連作の分析から、フェッラーラでは騎士物語の描写とイタリアにおける人文主義的なテクストや古代への趣味が特に混交して現れていることが確認できた。 これらの成果については共著『カルチャー・ミックスIII』(清瀬みさを編、晃洋書房、2020)「ルネサンス期宮廷美術におけるヘラクレス図像の様相」として刊行された。
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