2019 Fiscal Year Research-status Report
1910-1920年代イタリア美術のモダニズム再考:「秩序回帰」と純粋な造形性
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19K13014
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
池野 絢子 京都造形芸術大学, 芸術学部, 准教授 (80748393)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 秩序への回帰 / フォーマリズム / 前衛美術 / 古典主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は以下の二点について研究を行い、その結果を論文にまとめた。 (1)画家カルロ・カッラと造形的価値についての言説 未来派の代表的な画家であったにもかかわらず早い段階で「回帰」を経験したカッラに注目し、1910年代の彼の言説を調査した。またとくに、デ・キリコやカッラが関わり、イタリアにおける「秩序への回帰」の中心となった雑誌『ヴァローリ・プラスティチ(造形的価値)』の実態について精査すべく、ローマ国立近代美術館付属のアーカイヴに所蔵されている編者マリオ・ブローリオの関連資料を二度にわたって調査した。その結果、カッラの方向転換が、友人であったアルデンゴ・ソッフィチとの交流に強く影響されていること、および雑誌『ヴァローリ・プラスティチ』の詳細がわかってきた。前者については論文にまとめたが、後者に関しては引き続きアーカイヴ調査を行う必要がある。 (2)彫刻家アルトゥーロ・マルティーニと「秩序への回帰」 カッラと同じく『ヴァローリ・プラスティチ』に参加した彫刻家アルトゥーロ・マルティーニの1910-20年代の制作経緯を調査した。マルティーニは後にファシズムを代表する彫刻家となったことで知られるが、彼の形成期にあたる同時代、マルティーニはエトルリア美術の価値を「発見」している。このような志向が、なぜ生じたのかを調査したところ、マルティーニ個人の関心とは別に、当時のエトルリア美術に対する関心の高まりの背景には、第一次世界大戦後のイタリアにおけるナショナリズムの高まりがあったことがわかった。同時代のナショナリズムと美術の関係は重要と考えられるため、今後も調査を続ける予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画書で予定していた一次資料の読解と二次資料の収集・分析に関しては、現地でのアーカイヴ調査を通じて予定通り遂行することができた。また、研究内容を論文にまとめる作業も集中的に行うことができた。予期せぬ出版の遅れや発表の中止があったためいずれも本年度中に公表することはかなわなかったが、以上のことから、課題自体はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も計画書に記載の内容を予定通り進めていくが、新型コロナウィルスの感染拡大の状況に鑑み、現地調査はしばらくのあいだ控えねばならないことが予想される。このため、夏に予定していた現地調査は見送り、当面は現時点で得られている資料の整理と読解を集中的に進める予定である。また、今年度予定していたが延期せざるをえなかった研究会についても、状況をみて改めて実施を検討していきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は3月に公開研究会を予定しており、残額分は講演者への謝金、ポスター印刷などの諸費用に使用する予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大により研究会を中止せざるを得ない状況になってしまった。これにより、使用予定額と実際の使用額に差が生じた。
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