2022 Fiscal Year Research-status Report
1910-1920年代イタリア美術のモダニズム再考:「秩序回帰」と純粋な造形性
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19K13014
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
池野 絢子 青山学院大学, 文学部, 准教授 (80748393)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 前衛芸術 / 未来派 / 秩序への回帰 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度行った研究の実績は主に以下の二点である。 (1)前衛芸術における時間概念の検討 昨年度の研究により、20世紀初頭のイタリア芸術においては、前衛であれ古典回帰の動きであれ、過去から未来へと進んでいく直線的な時間概念の失効という前提を共有していたのではないかという仮説に至った。今年度はこの仮説を検証するために、未来派のマニフェストやその他関連文献を検証し、芸術の歴史観がどのように捉えられているかを分析する作業を行った。この作業はまだ結論に至っておらず、来年度も引き続き作業を進める予定である。またイタリアの状況を客観的に分析するために、同時代の他国の前衛芸術についても検証を行った。 (2)『ヴァローリ・プラスティチ』派と新即物主義 イタリアにおける秩序回帰の中心となった『ヴァローリ・プラスティチ(新造形主義)』は国際的な芸術雑誌であり、ヨーロッパの他の地域にも影響力を持ったことが知られている。特にドイツにおいてはゲオルク・シュリンプフをはじめとする新即物主義ないし魔術的リアリズムと呼ばれる具象画家たちの画風に顕著な影響を認めることができる。そこで今年度は、新即物主義の画家たちについての文献調査を集中的に行った。そこから明らかになったのは、日常的な風俗や風景、静物を具象的な方法で描いた点で彼らは共通しているが、「造形」に対する理念や政治性に明確な差異が見られることである。特に政治性の問題は後のファシズムと彼らの芸術との関わりを考える上で重要であり、来年度も継続して考察したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、新型コロナウィルスの感染拡大により、現地調査を断念せざるを得なかった。このため研究をまとめる作業が遅れており、当初の目標を達することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで現地調査をすることができなかったため、次年度は現地調査を中心に行なってこれまでの研究の仮説を検証する作業を行いたいと考えている。ローマ国立近代美術館およびローマ21世紀美術館、ロヴェレートにある20世紀アーカイヴの資料を調査する予定である。また、各地にあるファシズム期の公共芸術についての調査も行う。以上の現地調査とこれまでの研究を総合し、本研究課題を総括する計画である。
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Causes of Carryover |
ここ数年、新型コロナウィルスの感染拡大により当初予定していた海外調査ができず、次年度使用額が生じている。次年度は長期の現地滞在、およびいくつかの国外での国際学会への出席も確定していることから、主に旅費で使用する計画である。
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