2023 Fiscal Year Research-status Report
1910-1920年代イタリア美術のモダニズム再考:「秩序回帰」と純粋な造形性
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19K13014
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
池野 絢子 青山学院大学, 文学部, 准教授 (80748393)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 秩序への回帰 / 未来派 / 機械 / 形而上絵画 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実績は以下の3点にまとめられる。 (1)マルゲリータ・サルファッティの芸術批評:ノヴェチェント派の主導者として知られる批評家サルファッティの1910年から20年代にかけてのテクストを、ヘルツィアーナ図書館(ローマ)、20世紀アーカイヴ(ロヴェレート)等において収集・分析し、彼女の求めた「近代的古典主義」がいかなるものであったかを論文にまとめた。今後は彼女の古代ローマに対する考えについて調査をすすめ、ファシズムとの関わりについて考察を深めたい。 (2)ジョルジョ・デ・キリコの古典主義時代:戦間期にデ・キリコがローマに滞在した頃、彼の古典主義がどのような発展を遂げたかを検討した。とくに、この時期のデ・キリコが模倣すべき対象として再発見したのが、盛期ルネサンスの絵画であったことは注目に値する。これまでに収集した文献に加えて、ローマ国立近代美術館のアーカイヴに所蔵されているヴァローリ・プラスティチ文庫の資料と突き合わせることで、この時代のデ・キリコの変化をより明瞭に捉えることが可能になった。その研究成果は今後論文にまとめる予定である。 (3)未来派の機械観:未来派が賛美した機械は、デ・キリコらの形而上絵画におけるマネキン像と興味深い対称性を有している。このため今年度は、1920年代の未来派の機械観について集中的に調査を行い、その成果を二度の国際シンポジウムで発表した。この過程で、エネルギーに満ちあふれた男性-機械(プランポリーニ)や女性-機械(フィッリア)、纏うものによって性が変化する機械(シローニ)など、同じ未来派であっても機械のジェンダー表象に複雑な差異が見られることがわかった。この点について調査をすすめ、論文としてまとめたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで新型コロナの影響で海外渡航を断念せざるを得ず、調査が滞ってきた。しかし今年度はイタリアで集中的に調査することができたため、飛躍的に研究が進展した。また、国際会議等でさまざまな国の研究者と意見を交換する機会を得られたことも、本研究の進展にとって大きな後押しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究計画の最終年度であり、研究実績に挙げたもののうち、(2)デ・キリコの古典主義、(3)未来派の機械観の二つについて、執筆中の論文を完成させ、研究の総括を行いたい。年度中には海外に赴き、フィールドワーク・文献調査も引き続き行うことも検討している。 また、2024年度は公開研究会を実施する予定である。さまざまな研究者と意見交換を行うと同時に、この研究を通じて得られた学術的知見を広く公開する機会を設けたい。
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Causes of Carryover |
本年度は海外での調査を重点的に行ったが、在外研究中で現地に長期滞在することができたため、毎回の渡航費用の負担がなく、結果として未使用額が生じた。2024年度は日本から海外調査に赴く予定であり、その旅費としてもちいるほか、公開研究会の謝金に使用する予定である。
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