2021 Fiscal Year Research-status Report
「徒然絵」の制作目的の解明―出版メディアとの交渉を手がかりに―
Project/Area Number |
19K13015
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
村木 桂子 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (20814966)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 徒然草 / 版本 / 物語絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世初期には、出版文化の隆盛にともない『源氏物語』や『伊勢物語』をはじめとする古典文学が町人など幅広い階層に享受された。同時にそれらは屏風や掛幅、絵巻、絵本などさまざまな形式に絵画化されることによって、これらの物語の情景は貴賤を問わず多様な階層に愛好された。『徒然草』も例外ではなく、これを絵画化したものは「徒然絵」として親しまれ敷衍していった。 本研究では、この「徒然絵」が近世に出版された注釈書などの挿絵を図像源泉としていることに注目する。まず「徒然絵」の源泉と考えられる挿絵が、注釈書のどのような主題/場面を選択して絵画化することによって、出版の目的を達成しようとしているのかを明らかにする。このことを通して、挿絵に依拠する「徒然絵」がどのような場で、どのような受容者によって利用されることを想定して制作されたのかを考慮し、近世における古典主題の絵画化の全容を解明する足がかりとすることを目的とする。 2020年度は、『徒然草』の原著テクストと注釈書テクストを比較して、注釈書のテクストが、どのような逸話を選択し、逸話のどの場面をどのように絵画化しているかに注目して分析を行った。この結果を踏まえて、2021年度は版本の挿絵、絵画作品を中心に、絵画化された情景がどのような場面を選択しているのかについて文献・作品調査を行った。さらに挿絵の風俗を分析するため、有職故実関連の資料調査を行った。ただし、コロナ禍で絵画作品の調査、閲覧が中止となったため、版本を中心とする文献資料の調査、分析にとどまった。また以下に述べる理由によって、2021年度の研究は2020年度に引き続き大幅に遅延しているため、次年度の研究計画は大幅な見直しが必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度は、前年に引き続きコロナ禍の影響により、予定していた個人所蔵先、美術館、博物館での絵画作品の調査および資料収集がすべて中止となり、計画を大幅に見直さなくてはならなくなった。さらに、2020年から両親が相次いで長期入院し、闘病生活を支えるため研究を一時中断せざるをえなかった。その後父の看取り、寝たきりとなった母の自宅介護を行っており、断続的に研究を行うことを余儀なくされ、現在に至っている。このため、当初予定していた研究は停滞しており、研究計画は大幅に遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、これまでに行った版本挿絵の分析を踏まえて論文執筆を行う。また、遅れていた絵画作品および文献資料の国内での調査、分析を可能な限り行う。ただし、現在の状況および時間的制約から鑑みて、海外での作品調査は困難なため中止とする。当初の計画を変更し、版本の挿絵、画帖など小画面の作品を主たる考察対象とし、有職故実関連、小袖雛形本などの文献資料調査・講読を行う。そのうえで、版本など小画面作品の風俗描写を丁寧に分析することによって、より詳細な版本の制作目的、制作背景について明らかにするよう、計画を修正する。
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Causes of Carryover |
次年度使用金額が生じた理由は、当初予定していた絵画作品および文献資料の調査が中止となったため、調査に必要な三脚、マクロレンズなどの撮影時に必要な機材にかかる物品費、旅費、人件費、謝金を使用しなかったことが挙げられる。これらは、前年度に行うことが出来なかった諸調査と、今年度計画している調査の費用として、順当に使用できると考える。ただし、海外での調査が中止となったため、旅費の一部は未使用になる見込みである。
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