2020 Fiscal Year Research-status Report
履歴と言説の追跡による仏像彫刻の再検討-戦前期国宝指定作例を中心に-
Project/Area Number |
19K13016
|
Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
杉崎 貴英 帝塚山大学, 文学部, 教授 (30460744)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 古社寺保存法 / 国宝保存法 / 国宝尊像石標 / 受容史 / 聖教 / 妙高寺 / 頼朝坊廻国伝説 / 六十六部 |
Outline of Annual Research Achievements |
[基礎的・総覧的作業](1)戦前期国宝指定彫刻作例に関するデータベースの作成は、基本情報の入力が概ね完了した。(2)今年度はそれを基礎としつつ、国宝尊像石標(仮称。「国宝」に指定された彫像の所在を銘記した石製の標柱)について所在調査をおこなった。現地訪問が大いに制約された状況下、まずオンラインによる調査を試みることで、全国に約130基の存在と主要銘文を把握し、基礎的データベースを構築した。滋賀県所在分のうち草津市・野洲市・大津市所在分、および福井県・京都府・大阪府・岡山県所在分については現地調査をなしえた。あわせて本年度を通じ、個別の事例に関する資料収集を随時おこなった。こうした作業を通じ、国宝尊像石標とその銘文は、宗教彫像に対する近代の国宝指定が地域にどのように受けとめられたかを考える上で好適な素材となりうることを確認できた。年度末には、一般向け教材のかたちではあるが、ひとまずの総説を文章化・発信する段階に至った(「オンライン現地調査の挑戦-仮称「国宝尊像石標」をさがして-」天平会通信講座例会、2021年2月)。 [各論的作業](1)妙高寺(新潟県小千谷市)本尊の木造愛染明王坐像(1935年国宝指定、現・重文)に関し、『日本国宝全集』解説が記す「伊豆国田中」の地から伝来したという言説を検討した。それは六十六部縁起としての頼朝坊廻国伝説を受容したものであることを明らかにし、そこには六十六部聖の場であった蔵王堂(長岡市、現・金峯神社)が関係する可能性を指摘した(『日本文化史研究』第52号)。なお本例に関しても国宝尊像石標(1935年建立)が妙高寺近隣に存し、現代への持続を含め、「国宝」制度受容に関しても興味深い事例として認識された。(2)地域に所在する古代・中世の仏像の原所在・履歴と言説に関し、当該地域外に所在する聖教奥書史料を活用した各論をまとめた(『富山史壇』第194号)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度を通じ、新型コロナウイルス感染拡大にともなうオンライン授業への対応等に多くの時間と労力を傾注することとなったのが最大の理由である。また現地訪問・資料調査に関しては、予想以上の制約が加わることとなった。 前年度の「今後の研究の推進方策」欄において「(a)履歴に関する史資料あるいは言説の堆積に関して注目すべき旧国宝指定作例で、かつインターネット上の資料公開や書誌データベース、各地の公共図書館のレファレンスサービス等の援用によりある程度まで推進が期待できるケースを複数件選択し試掘的リサーチを実践すること」を挙げていたが、各論的作業のうち年度内の公表に至った妙高寺例は、過去に現地訪問をなしえていたものの、本研究に関しては終始そうした手段により推進しえたものである。また国宝尊像石標に関しては、むしろ現況下において可能な限りオンラインという手段(Googleストリートビュー等)を駆使した方法を模索したことにより、全国にわたる総覧的把握をほぼ完了できたといってよい。 また同欄の「(b)履歴と言説に関わる把握をかねて進めていた、あるいは一旦の成果発表をなした諸作例(中略)に関して、補完的な調査研究および再論を含む成果発表を推進すること」については、成果発表には至らなかったものの、富山考古学会の「越中の小金銅仏調査」報告書の編集に関わる過程で、鳥取大山寺小金銅仏群、富山県[立山博物館]銅造帝釈天立像について若干の進捗をはかることができた。また同報告書(2021年中に刊行予定)に「小金銅仏の調査研究史をめぐる覚書」を寄稿し、本研究において得た知見を反映することができた。 年度を通じ、当初の予想以上に遅延・停滞を余儀なくされた一年ではあったが、上記のことを総合的にみて「やや遅れている」という判断にとどめたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の本欄に記した「新型コロナウイルス感染拡大の影響の持続を鑑みれば、現地調査は次年度も当面の実施は難しく、その状況推移に計画如何も左右されるといわねばならない」という制約は、現時点で同様としておかざるをえない。今後の推進方策は前年度と概ね同様となるが、補助事業期間の延長も視野に入れつつ、制約下で可能な方策を随時検討する。 なお本年度の作業により、国宝尊像石標に関しては、滋賀県所在分が全体の約3分の1を占めること、ことに湖北地域に多いことが明らかとなり、仏像彫刻に関する「国宝」制度受容の様相に関する当該地域の重要性が認められた。状況をみつつ現地調査を行い、あわせて関連史料に関する調査も推進をはかる。 また本年度中、勤務先の附属博物館における特別展示「木津川をめぐる神と仏-井手・城陽の調査から-」の準備・開催に副担当として従事した。これに相前後して当該地域に関する理解と探索を進める過程で、近世に当該地域から遠隔地へと転出した注目すべき中世作例と、それに関わる近世の略縁起の存在を知りえた。縁起に語られる移動には史実性を認めうると考えられる。現所在地での調査は感染拡大状況にも左右されるといわざるをえないが、まずは縁起に関し京都府域の側で可能な調査を推進したい。
|
Causes of Carryover |
昨年度と同様、遠隔地各所への研究出張予定を見合わさざるをえない状況が年度を通じたほとんどの期間で続いたことも理由として挙げられるのだが、オンライン授業への対応等により、そもそも本研究に割ける時間が予想以上に減少したことが大きい。高額あるいは大型の図書および機器についても、設置場所の都合および調査研究の進捗状況等を考慮し、引き続き購入を見送らざるをえなかった。 次年度は古書による購入や複写による入手を含めた資料収集を引き続き進めるほか、状況をみつつ近隣地域に比重をかけた研究出張を随時おこない、資料の形態や調査環境等の必要に応じて機器・機材類の購入もはかる。また、データベース構築の作業委託に関して謝金を支出する。
|
Research Products
(7 results)