2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K13034
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
牧野 一穂 長崎大学, 教育学部, 准教授 (30738448)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本画 / 支持体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、既存の合板に関する使用方法並びに物的特性を、日本画制作者の視座から再整理し、得られた知見から絵画用合板を新たに製作することを試みたものである。これまでの研究において、板状の形態を保持したままでは、日本画に用いる際の支持体としての条件が満たせず、新たな支持体として成立させることは困難であることがわかった。そこで支持体の描画表面が木材でありながら、堅牢かつ柔軟性があり加えて保存修復が可能である支持体こそが、日本画用合板の製造の本質となるものと思われることから、日本画の技法である裏打ち技法を用い、ロール状の支持体として成立させる視点から製造を試みた。ロール状の支持体を製造するにあたっては、最も一般的である、支持体を描画前にパネルに水張りすることが可能なことと、完成後修復可能な形態を想定した。そのため保存修復時に用いられる天然由来の生麩糊を接着剤として使用し、単板と楮紙を裏打ちすることで二層構造を持たせた支持体を製造した。描画表面が木材であるために可能となる表現の獲得と、従来の和紙をパネルに張り込む際の水張りを行うことが出来る、新たな支持体を製造できたものと思われる。また、この試みは現在報告されておらず、現代日本画表現に一定の付与ができたものと考える。前述したように、形状は紙のように扱えるものでありながら、描画面は木材である支持体を製造した。本研究ではこの支持体を、単板紙と呼称する。しかし、この単板紙を用いた日本画制作中に起こる現象並びに効果については、様々な表現上の制約が生じるものと予想されることから、本年度では、既往の合板に用いられていた滲み止め、彩色技法、並びに合板の彩色技法を踏襲し、絵具の固着具合、発色、堅牢性に着目しつつ、実験検証、実践検証を試みた。そして、単板紙を制作に用いるための手掛かりを得、制作を行うことで、単板紙を用いた表現の一端を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、支持体を板状からロール状に形成し製造するという研究方向の転換の発想を得てからは、既往の表現のための塗布実験へと順調に推移することができた。加えて、合板を支持体に用いた表現を実制作で行ってきたことから、本研究に必要な、表現へと移行するまでに必須の研究手順に即した試行の種類、回数についても担保できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、これまでに行った合板を日本画制作の支持体として成立させる研究に基づきながら、下処理、塗布実験を進め、新たな支持体としての単板紙の特徴を掲示したものであるが、制作の可能性においては、検証が不十分である。加えて、単板の種類と裏打ちに用いた和紙の種類についても限定的であると言わざるを得ないことから、今後の課題として制作を通じ、結果を還元していく。また研究は、最終年度にあたるため、計画通り、充分な数の制作を行い、その表現を展示を通じ、広く公開する。
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