2019 Fiscal Year Research-status Report
文化政策における文化財保護行政の位置:70年代以降の埼玉県文化行政の分析
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19K13035
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
土屋 正臣 城西大学, 現代政策学部, 准教授 (00825896)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 文化行政 / 行政の文化化 / 文化財保護政策 / 自治体文化行政 / 革新自治体 / 風土記の丘構想 / 埼玉県 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度前半は、埼玉県立図書館を中心に文化行政関連の資料収集を実施した。具体的には埼玉新聞や文化行政懇談会などの1970・80年代における文化行政の展開を素描するための基礎資料を収集しつつ、文化財保護行政がどのように文化行政に組入れられていったのかという問に基づいて情報を精査しながら抽出して行った。 一方、埼玉県立図書館での資料調査過程において、当時住民に最も身近な自治体として、基礎自治体レベルでの文化行政推進が強く推進されていたことが判明し、その基礎資料が残されている各市町村立図書館(白岡市立図書館、狭山市立図書館、行田市立図書館など)にて各自治体における文化行政懇談会などの資料調査を行った。これと並行して研究の全体像をまとめるため、6月に学内研究会である「現代政策研究会」での口頭発表を行った。 2019年度後半は、研究の全体像を素描するかたちで「文化行政における文化財保護行政の位置づけ」と題した論考を発表した。2019年度前半に引き続き埼玉県立図書館での資料調査を継続するとともに、同時期の埼玉県以外の革新自治体が実践した文化行政において文化財保護行政が占めた位置について確認するため、京都府立図書館や横浜市立図書館での資料調査を実施した。また、文化行政という枠組みの中での文化財保護政策の一つとして位置づけられる行田市のさきたま風土記の丘および附属資料館において写真撮影などによる資料調査を行った。 以上の成果をまとめ、12月下旬には日本文化政策学会第13回研究大会において「1970・80年代の文化行政に対する文化財保護行政の立ち位置に関する試論―埼玉県を事例として―」の口頭発表を行い、研究内容を更に深化させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今日、文化財保護法の一部改正に見られるように、文化財保護政策と他領域の政策との連携が模索されている中で、かつて自治体文化行政の中で文化財保護行政がどのような位置づけを持って、それが今日どのようにつながっているのか、あるいはつながっていないのかという視点で、主に本年度は自治体文化行政の全体像の把握とその整理に努めた。その結果概ね当初の計画のとおり遂行することができた。 一方で、資料収集・整理を進めるなかで、埼玉県の文化行政では、①住民に身近な基礎自治体において文化行政を根付かせること(その幾つかは地域の歴史や文化を意識した政策を展開)、②保存主義の文化財保護ではなく、住民運動との連携を図りつつ、自然環境保護と一体となった歴史的環境の保全のための政策が意識されていた、③橋梁や学校といった公共建築物の意匠に地域の歴史性が意識されるだけでなく、その意思決定に住民参加が試みられていたことも明らかとなった。これらの点は先行研究で余り検証されてこなかった部分であり、新たに発見できた領域の研究を更に進めることで文化行政における文化財保護政策の位置付けを明らかにするという本研究の目的を確実に達成できる見通しを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の資料調査・整理の中で明らかとなった①住民に身近な基礎自治体において文化行政を根付かせること、②保存主義の文化財保護ではなく、住民運動との連携を図りつつ、自然環境保護と一体となった歴史的環境の保全のための政策が意識されていた、③橋梁や学校といった公共建築物の意匠に地域の歴史性が意識されるだけでなく、その意思決定に住民参加が試みられていた、という埼玉県の文化行政の各特質についてさらに資料調査を実施し、その実態把握に努める。さらにこれらの政策が今日の地域ごとの文化財保護政策のあり方や地域社会にどのような影響を及ぼしているのか、あるいは及ぼしていないのかという点を検証し、文化行政における文化財保護政策の位置付けを明確にしていく。 上記の埼玉県における文化行政の実態把握を進めていく一方で、同時期の革新自治体における文化行政の中での文化財保護政策のあり方についても解明を進めていく。この解明を通じて、他の自治体文化行政との関係において埼玉県の文化行政がどのような位置を占めてきたのかという点も明らかにしていく。 具体的な作業としては文献資料の調査を進めた上で、関係各所への現地踏査や関係者への事実関係の確認作業を行う。また、最終的な書籍化に向けた準備として論文作成を進めるとともに、各章としてまとめた内容を口頭発表や学術論文として順次公開に努めていく。
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Research Products
(3 results)