2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13036
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
チン ホウウ 多摩美術大学, 美術学部, 助教 (80838590)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 紙 / 画紙 / 日本画 / 墨 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、画紙の特質と絵画表現の関係性を明らかにし、画紙自体が日本画の新たな表現の一部であると示すことに努めた。まず、本研究の研究背景とした近代の日本画における水墨表現の特徴に関して、史的観点に重点を置き、文献調査を行った。調査では、特に大正時代から明治時代に活動した日本画家による画紙の使用状況を明らかにするため、製紙所と画家の往来書簡及び手記等の資料を収集した。それらの内容から、画家らが希望していた画紙の産地、種類、特質を分析した。具体的な分析方法として、近代における日本画用画紙の開発経緯と照らし合わせながら、近代の画家らが独自の表現を展開するための、画紙の選択基準を調査した。画家らは画紙の特質を理解して選択することにより、自身が求める表現を獲得している可能性の提示を試みた。 結果、近代日本画家は滲みに重きを置いていたことが確認された。画家らは絵画において滲みを表すため、抄造の原料・ドーサ引きの有無や濃度を吟味し、自身の表現に合った様々な画紙を用いていた。さらに、墨色に対するこだわりが見られたことから、近代の画家らにとって、主要な絵画表現は水墨表現であったと考えられる。加えて、画家らは製紙家との交流を通して様々な画紙を抄造していた。このように画家が個別に使用する画紙の存在は、画紙が画家にとって重要な画材であることを示す。すなわち、画紙の性質を理解し、自身の望む表現に適切な画紙を選ぶことが、日本画の制作過程における重要な過程であり、近代の日本画家らもそのように捉えていたと見られる(チンホウウ「岩野平三郎と近代日本画家の交流に関する一考察」『多摩美術研究』第8号、多摩美術大学、43-55頁)。 上記の調査結果から、画紙の抄造する際の原料やドーサ引きの有無・濃度が水墨表現に活かせることが明らかになった。そこで、麻紙を中心に制作実践を行い、成果として台湾で作品を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は近代の日本画における水墨表現の特徴について文献調査を行う予定であった。実際は、概要で示したように、大正時代から明治時代に活動した日本画家の画紙の使用状況の調査、製紙所と画家の往来書簡及び手記の資料収集、書簡の内容に基づく画家らが希望した画紙の産地、種類、特質の分析を行った。さらに、研究成果を制作実践に還元し、台湾で研究成果を発表した。 このように本年度は予定していた文献調査に加えて制作実践を行った。しかし、文献調査として予定していた東京美術学校と京都美術学校の日本画教育の変遷については資料取集の途中である。そのため、教育が日本画に与えた影響に関して言及するに至らず、研究の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、美術教育と水墨表現の関係を調査する。また、近代日本独自の水墨表現を明らかにするため、紙本絵画を中心に制作を行った日本画家及び洋画家から日本画へ転向した画家を中心に作品を考察する。研究協力機関において、特に小杉放菴の麻紙(作品実見申請:栃木県・日光小杉放菴記念美術館)、近藤浩一路の画仙紙(作品実見申請:山梨県・近藤浩一路記念南部町立美術館、山梨県立美術館)に見られる、それぞれの作品の制作方法と水墨表現の特徴に注目する。 2020年度は東アジアの水墨表現及び画紙の関係性に言及するため、日本と同じく楮を中心に紙を抄造している韓国の韓紙を調査する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑み、製紙過程及び作品実見のための現地調査は次年度に延期することとする。韓紙に関しては文献調査を行い、可能であれば韓紙を取り寄せて制作実験を行う。
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Causes of Carryover |
2020年度は、前年度の調査を踏まえて、紙本絵画を中心に制作を行った日本画家、そして洋画家から日本画へ転向した画家の作品 を考察する。研究協力機関において、特に小杉放菴に対する麻紙(作品実見申請:栃木県・日光小杉放菴記念美術館)、近藤浩一路に対する画仙紙(作品実見申請:山梨県・近藤浩一路記念南部町立美術館、山梨県立美術館)における、それぞれの作品の制作方法と水墨表現の特徴に注目する。 調査対象とした美術館(栃木県、山梨県)への移動は鉄道を利用するため、交通費を計上する。作品の画像を引用するために美術館へ借用する場合、作品撮影・作品借用費を計上する。 そして消耗品費として、申請者は先行して行った研究にて、基礎的な資料収集を行ってきたが、不足している関連文献の費用を計上する。資料は経費消減のため、図書貸し出し可能なものは、貸出しにより利用する(交通費・文献複写費)。そして、作品実見調査を行うために、デジタルカメラとデジタル顕微鏡を計上する。デジタルカメラは作品の写真撮影に使用する。デジタル顕微鏡は画紙の繊維の絡め具合調査するために、拡大写真取るために計上する。そして印刷のため、プリンター、インクジェットを計上する。 また、実践研究費用において、多種の和紙と画仙紙、韓紙を計上する。それに関連して成果物を還元するための画材と制作に必要な物を計上する。
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Research Products
(2 results)