2021 Fiscal Year Research-status Report
ワーグナー《神々の黄昏》の初演パート譜に基づく楽譜校訂
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19K13037
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Research Institution | Toho Gakuen School of Music |
Principal Investigator |
岡田 安樹浩 桐朋学園大学, 音楽学部, 講師 (70836022)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ワーグナー / コピスト / 楽譜の筆跡研究 / 楽譜校訂 / オペラ研究 / 歴史的情報に基づく演奏実践 / ニーベルングの指環 / 管弦楽法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も、2020年度に引き続き世界的なパンデミックの影響により、必要な外国での調査(ドイツのミュンヘンおよびバイロイト)が行えなかった。その一方で、2020年度報告書において言及した、《神々の黄昏》ウィーン初演(1879)のパート譜の一部によってバイロイト初演の資料的欠損を補う試みが進展し、ティンパニ・パートを復元することができたほか、ホルンとテューバの持ち替えパート(第5、第6、第7、第8ホルン・パート)の調と持ち替えについての新たな知見が得られた。その結果、自筆資料が現存しないために部分的な復元にとどまっていた第3幕の場面転換音楽(通称「葬送行進曲」)の延長部分について、ハープ・パートとホルン/テューバ・パートを復元することができた。これらの成果は、2022年7月刊行予定の『ワーグナーシュンポシオン』(2022)において公表される。 また、バイロイト初演パート譜の筆跡分析をより詳細に行なった結果、ワーグナーのコピストについての新しい知見も得られた。それによって、近年刊行されたワーグナー全集の『補巻』に収録された、《神々の黄昏》の抜粋演奏用に作曲者自身が追加作曲した演奏会用のオリジナル終結部の復元案に重大な誤りがあることが明らかになった。これについては、2021年11月14日に開催された日本音楽学会第72回全国大会にて口頭発表した。この成果の一部は、上述の『ワーグナーシュンポシオン』掲載予定の論文にも含まれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの世界的流行により、ミュンヘン、バイロイトで実施予定の追加調査が行えない状況が続いたため。
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Strategy for Future Research Activity |
欧州では感染状況の落ち着きとともにさまざまな制約が緩和されてきているため、2022年度中に延期となっていたミュンヘンおよびバイロイトでの追加調査を行う予定である。研究を完成させるためには、これらの追加調査は欠かせない作業である。 また、筆跡分析が進展したことで新たに得られた知見をさらに発展させるために、スイス、ルツェルンにあるワーグナー博物館に所蔵されている楽譜資料の調査を行う予定であるほか、米コロンビア大学所蔵の「アントン・ザイドル・コレクション」に含まれる《神々の黄昏》のパート資料が重要である可能性が浮上したため、これも調査の対象に含める予定である。 これらの調査の結果をまとめ、初演パート譜にもとづいた楽譜の校訂を完成させ、演奏のための異同一覧を作成し、公表する。
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Causes of Carryover |
パンデミックの影響によりドイツでの資料調査を延期しているためである。状況が好転次第、調査を行う予定であり、その旅費として使用する予定である。
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