2019 Fiscal Year Research-status Report
統計的仮説検定の歴史的源流と哲学的意義に関する研究
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19K13044
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
森元 良太 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 准教授 (70648500)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 科学哲学 / 統計的仮説検定 / 有意性検定 / 仮説検定 / フィッシャー / ネイマン / ピアソン |
Outline of Annual Research Achievements |
統計的仮説検定は仮説を検定する一般的な方法であるが、近年この検定法の誤解や誤用が氾濫し、様々な分野で警鐘が鳴らされている。統計的仮説検定とは、フィッシャー流の有意性検定とネイマン‐ピアソン流の仮説検定を混成した検定法である。フィッシャーとネイマン‐ピアソンは検定法の前提、目的、適用範囲、意義などの科学哲学的問題をめぐり激しい論争を繰り広げた。この論争は解決をみずに終結し、現在でも科学哲学的問題は棚上げにされたまま統計的仮説検定が使用されており、そのことが誤解や誤用の大きな要因と考えられる。 そこで本研究では、「統計的仮説検定がなぜ誤解や誤用されるのか」という問いを科学史・科学哲学の観点から考察する。そのため、フィッシャー流の有意性検定とネイマン‐ピアソン流の仮説検定の前提、目的、適用範囲、意義などを科学哲学の観点から比較し、また二種類の検定法が統計的仮説検定へと混成された経緯について史的考察を加える。それにより、統計的仮説検定の誤解や誤用を正し、適切な使用法を提示する。 そのため、令和元年度は、統計学者E. レーマンのFisher, Neyman, and the Creation of Classical Statistics (2011)や芝村の『R. A. フィッシャーの統計理論』(2004)などの文献、およびR. フィッシャー、J. ネイマン、E. ピアソンの一次文献を用い、フィッシャー流の有意性検定とネイマン‐ピアソン流の仮説検定の比較を行った。まずは、二種類の検定法の数学的前提と目的の相違点と類似点を整理した。次に、科学哲学者I. ハッキングのLogic of Statistical Inference (2016)やE. ソーバーの『科学と証拠』(2012)、科学史家S. スティグラーのThe History of Statistics (1990) などの科学史・科学哲学関連の文献を手掛かりに、フィッシャー、ネイマン、ピアソンの科学観の異同を明示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、フィッシャー、ネイマン、ピアソンの抱く科学観の違いが、それぞれの検定法の前提や目的にどのように関連するのかを明らかにする予定だったが、その分析は途中段階である。しかし、それ以外は概ね予定通り遂行できた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、フィッシャー流の有意性検定、ネイマン‐ピアソン流の仮説検定、統計的仮説検定についての一次文献調査や関連文献を精読することにより、二種類の検定法が統計的仮説検定として混成された歴史的源流を辿り、統計的仮説検定を初期に提唱したリンドキスト、ワルド、レーマンらの科学観を明らかにする。そのため、二種類の検定法が統計的仮説検定として混成された歴史的源流を辿り、統計的仮説検定を初期に提唱したリンドキスト、ワルド、レーマンらの科学観を明らかにする。そのため、統計的仮説検定が最初に登場したのは、リンドキストの統計学の教科書Statistical Analysis in Educational Research (1940)とされる。まずはリンドキストの文献を精読し、リンドキストの科学や統計的仮説検定についての思想を明らかにする。次に、リンドキスト(1940)以降1950年代にかけての統計学の代表的な教科書であるA. ワルドのSequential Analysis of Statistical Data (1943)、E. レーマンのTesting Statistical Hypotheses (1959)などの文献をもとに、統計的仮説検定が普及していく歴史的経緯を辿りながら、統計的仮説検定の解説の変遷やワルドらの科学観を分析する。
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Causes of Carryover |
今年度は学会が居住地に近い場所での開催が多く、旅費が予定よりわずかに少なくなった。その予算は次年度の物品費にあてる予定である。
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