2020 Fiscal Year Research-status Report
Research and pedagogy in the history of quantum statistical mechanics
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19K13045
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
稲葉 肇 明治大学, 政治経済学部, 専任講師 (00793093)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プランク / 状態和 / ダーウィン / ファウラー / 分配関数 / フォン・ノイマン / トルマン |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度では,既に状態和あるいは分配関数と呼ばれる計算テクニックの形成過程をある程度分析したが,本年度はその結果を再度精査し,対比と特徴づけを行った.状態和は熱力学的特性関数を計算するという動機づけから導入された関数であるが,これにより,プランクの教科書『熱輻射論講義』が第4版(1921年)に到って大幅に書き換えられたこと,また同世代の物理学者が,状態和の方法を採用するとき,この第4版をさかんに参照したことを確認した.他方で,分配関数はダーウィンとファウラーによって導入された関数であるが,これは状態和と等価ではあるものの,黒体放射の法則を厳密に導出するという動機づけが状態和と異なる.今日の統計力学では分配関数という呼び名が一般的であるものの,その使われ方はむしろ状態和に近いように思われる. また,フォン・ノイマンの『量子力学の数学的基礎』(1932)とトルマンの『統計力学の諸原理』(1938)で定式化された量子統計力学の体系を検討した.これらの教科書においては,かつて古典論の枠内で定式化されたギブスのアンサンブル概念が,修正を加えられつつもほぼその姿を保ったことを確認した.この結果は,統計力学の歴史という観点から,古典論と量子論のあいだの歴史的連続性を示唆するものである. なお,本年度は,『現代思想』誌からの依頼を受け,統計力学の本質をなすとも言える「統計的方法」について,1873年のマクスウェルの考察を中心に振り返った(「マクスウェルの統計的知識と自由意志」『現代思想』第48巻12号(2020年)164-174頁).この結果からは,統計力学の歴史を全体として貫く観点が得られるものと期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により,未公刊の文書館史料については調査の実施が困難,または不可能であった.当初予定にあった,カリフォルニア工科大学文書館に収蔵されているトルマンに関する資料や,ブールハーヴェ王立博物館所蔵のエーレンフェスト宛書簡の調査は,実施できなかった.そのため,本来の構想からは外れた形となるが,トルマンの『統計力学の諸原理』(1938)の教育的価値については,書評などからの間接的な推測にとどめざるを得ないだろう.また,Archive for History of Quantum Physics が収蔵されている国立国会図書館も利用制限がかかっており,これに収められているファウラーの講義ノートの分析もはかどっているとは言えない.これについての善後策は検討中である.
その他の公刊史料については,本年度はランダウ=リフシッツ『統計物理学』(1938),スレーター『化学物理学入門』(1939),シュレーディンガー『統計熱力学』(1946)および関連する論文群について,予定通りおおむね分析を終えた.またこれに加えて,量子統計力学の形成過程を,量子力学のフォーマリズムの観点から検討するため,新たにフォン・ノイマン『量子力学の数学的基礎』(1932)およびこれに先行する論文群を検討した.現在はその結果をまとめている最中である.
文書館史料については調査がきわめて困難であったが,その分に生じた時間的余裕で,計画にはなかった公刊史料を検討することができた.その意味では,全体としてはおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の現在の状況からして,次年度ならば資料調査に赴けるといった望みは小さいように思われる.そこで,未公刊史料,とくに講義ノート等にもとづいて,統計力学における研究と教育の相互作用を解明するという目標は,現在のところは棚上げせざるを得ず,公刊史料にもとづいた探究に切り替えることが,現在の状況にあっては賢明である. そこで次年度では,より広範囲の統計力学に関する教科書を取り上げ,それについて,公刊史料から見える範囲での研究と教育の相互作用のプロセスを検討したい.たとえば,ディラック『量子力学』(1930)は,何度も版を重ね,そのうち初版と第4版については邦訳されたほど広く読まれた教科書である.これについてはディラック以降の世代の物理学者が頻繁に参照するとともに,学生時代の思い出として言及するため,この教科書を中心として,関連する論文群や,物理学者の回想録・随筆などをまとめることで,研究と教育の相互作用を描くことが可能ではないかと考えている. また,これまでの成果を総合して,統計力学の形成過程に関する単著を公刊する機会を得た.今後はその作業にもエフォートを投じたい.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症により,米国とオランダでの資料調査が不可能だったことによる.これにより生じた次年度使用額については,仮に感染症にかかわる状況が好転した場合には,当初予定通りの資料調査のために使用する.そうではない場合,間接的な状況推測のための図書および資料群の購入費や,図書館資料の相互貸借のための費用として使用する.
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Research Products
(3 results)