2019 Fiscal Year Research-status Report
Cross-Disciplinary Study on the Exchange and Conflict of Japanese Artists Born in the 1930s
Project/Area Number |
19K13048
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀江 秀史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10827504)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 比較文学 / 寺山修司 / メディア論 / 映画論 / クロスジャンル論 / 年譜 / 1960年代日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、詩人寺山修司の活動を基軸として、戦後日本の時代精神を芸術家たちの営みから明らかにすること目的としている。 2019年度は、『寺山修司の一九六〇年代 不可分の精神』を白水社から刊行することができた。同書は、2016年度提出の博士学位論文に大幅な加筆修正を加えて、一般書として仕立て直したものであり、寺山の多ジャンルに亘る活動を総体として捉えることを主眼としている。本年度の研究と直接に関わるため、主な加筆修正個所を以下に列挙する。 1、序章の従来研究の様相について、博士論文提出後の研究状況も組み込むかたちで、より詳細にまとめ直した。2、第Ⅱ部の、1960年代のテレビ、ラジオ、映画、雑誌といったマスメディアに注目して、寺山がジャンル横断的な活動のための理念を磨く過程を追う部分について、資料収集をより徹底し、内容の実証的精度を高めた。3、終章におけるアルゼンチンの作家ボルヘスとの詩人的直観の共有を論ずる部分について、調査研究を進め、博士論文をほぼ全面的に書き直して発表した。4、巻末における独自調査による「ラジオ年譜」と、生前および没後の単行本再編の様子を網羅的に辿れる「全著作一覧」を付したことも、ほとんどの原資料にあたることができた本年度の研究により達成した成果である。 本書は、生涯を通じて寺山の活動の基底にあった〈ダイアローグ〉という原理や〈私〉というテーマについて、一次資料の検討を徹底することで、作家の全体像を見出そうとする研究である。2020年4月18日付『朝日新聞』「著者に会いたい」欄にて紹介されたほか(福田宏樹記者)、書評では、久慈きみ代(4月27日付『東奥日報』)、野島直子(同30日付「宇野彰現代哲学研究所ブログ」)、松井茂(『週刊読書人』5月15日号)といった専門領域の重なる研究者の方々から、積極的な評価を頂いている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
一年目にあたる2019年度は、応募時の研究計画書に「予定」として掲げた「東京大学の出版助成を受け、白水社より、博士論文を単行本として出版する」という計画を、当初予定を完全に満たすかたちで実現できた。年度途中に学内で所属先の変更があり、研究が遅滞する可能性が生じたが、科研と出版の助成と、出版社企画の通過という精神的な後押しや、優秀な編集者によるお力添えのおかげで、何とか踏みとどまって計画を遂行できた。 もちろん、拙速になることで内容を疎かにする事態も防いだ。修正を加えるべきと計画していた部分を当初予定かそれ以上に補完できたのは、時間的、予算(紙幅)的に盛り込むことが不可能と判断された研究課題の部分(例えばマスメディアの研究応用の論考など)を、研究を進めて問題個所を明らかにしつつ、次年度以降の書籍の準備とするという判断で19年度の本の構成を決めたためでもある。 当初計画が遂行され、かつ翌年度以降の研究にも踏み込めたため、当初計画以上に進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
応募時の計画書二年目は、寺山修司と写真史との交わりに関する研究を進め、出版を予定すると記した。しかし、(計画書では最終年度にまとめると記した)概説的な寺山修司論を発表するという中公新書の仕事の企画が、写真論よりも先に通ったため、こちらの仕事も進めねばならない。また、本研究の方法論的あるいは学問的な基盤となる比較文学について、そのディシプリンをまとめた共著刊行の企画も進んでおり、一定の時間を要する。 写真論の出版企画を通しつつその書籍の内容をまとめていく仕事と、中公新書、比較文学教科書という三つの仕事が並行して進むことになり、全てが三年目以降に食い込む可能性もあるが、「進捗状況」に記したとおり、研究は当初計画以上に進展していて時間的余裕も若干生まれており、内容の増加という歓迎すべき事態への対応は可能と判断できる。もちろんどの計画も頓挫する可能性は極めて低い。時間的な計画を微修正することで対応し、内容を疎かにせず、それぞれを高い水準で実現させる所存である。 また、疫病の流行により調査出張予定は削らざるを得ないと思われるが、もともと書籍や雑誌等の出版物を一次資料の基盤に据える研究であるため、出張調査を書籍調査で補うのはもちろんにせよ、研究内容を大きく変更する必要までは生じないと判断できる。
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Remarks |
公開準備中(2020年6月1日現在)
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Research Products
(2 results)