2020 Fiscal Year Research-status Report
日本近代文学における江戸文化の受容と表現に関する通史的研究
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19K13055
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
多田 蔵人 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (70757608)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 永井荷風 / 近世文学 / 漢文学 / 翻訳 / 重版 / 出版文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は江戸文学の近代文学の受容に関して、論文発表を中心として研究を行った。本研究課題の中心テーマである永井荷風の江戸受容について、論文(単著)「永井荷風と漢学――『下谷叢話の表現』」を発表した。漢詩人である父親を持つ荷風が、一般に漢文に親しい作家とされる森鴎外よりも圧倒的に同時代漢文学に関する情報量の濃い環境に育ったこと、荷風の文体にあえて漢文の格を外していく性格があることを論じたものである。また論文(単著)「「趣味」(Taste)とは何か――近代の「好古」」を発表した。江戸から近代への変遷過程で文化の重要な物差しとなった「趣味」という語(Tasteの訳語)の語誌から、個々の文学作品の指向性を測定する論である。論文(単著)「島尾敏雄『出孤島記』論」は、これまで概ね昭和戦前期までの研究にとどまってきた代表者の研究を戦後の文学へと広げ、近世から戦後にいたる長いスパンで文学モードの問題を考えるきっかけとなるものであった。「日本古書通信」誌上にて二度行った資料紹介では、高山樗牛の『瀧口入道』をはじめとする明治期の「百版本」の数々を取りあげた。本が出版された後、再度同じ版面を刷りだして売り出した本は、江戸時代の版本文化では「後刷り」と呼ばれ、近代の活字本文化では「重版」と呼ばれる。今回の資料紹介では、この「重版」を江戸と近代、双方の出版研究の手法を複合して探求することで、資料と表現の両面から近代文学を浮き彫りにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
論文3本、資料紹介2本は前年度の成果に比してやや少ないが、当初計画にて本年度を最終年度に向けての蓄積の期間と考えていたことを踏まえれば、計画以上に進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は近代文学における近世文化との連続を示す諸作について、引き続き論文を発表する。すでに明治文学について複数の論文を執筆しており、これまで比較的手薄であった大正前期の作品についても論文を発表予定である。さらに研究課題のうち出版文化に関する論考を、これまで発表した論文や口頭発表の成果に新しい成果を加え、一冊にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大にともなう、科研費による出張をすべて取りやめ物品購入に切り替えた分の未使用額。次年度研究計画における物品購入に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)