2019 Fiscal Year Research-status Report
草双紙史の再構築に関する研究-18世紀の装丁様式からみえる出板活動と享受の実態
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19K13062
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
松原 哲子 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (70796391)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 初期草双紙 / 黒本青本 / 赤本 / 菊寿草 / 題簽 / 初摺 / 後摺 / 装丁 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の草双紙研究において、草双紙が赤本、黒本、青本と装丁を順に変化させ、それに伴って質的にも変化・成熟していったという『菊寿草』序文の記事に基づいた歴史観が研究の前提として機能してきたといえる。 しかしながら、現存する草双紙の実態からいって、この前提は誤りで、作品を正しく評価し、草双紙というジャンルを定義づける拠りどころとはいえない。 本研究は、国内外に存在する初期草双紙の悉皆調査をすることによって、草双紙の各装丁は同時並列に存在し、内容も様々な要素を草創期から持ち合わせていたことを立証するものである。また、草双紙の性質が次第に変化・発展したように評価された原因を明らかにする。それは、一部の草双紙作者が作品中に示した一過性の目新しさを、大田南畝など周囲の人間が仲間内で喧伝した結果であり、後の人間がこのような二次資料の言辞を根拠に草双紙全体の変質と誤認したために起こったものである点についても立証する。 2019年度は大英図書館・大英博物館・フランス国立図書館について調査を行った。所蔵される初期草双紙について悉皆調査および撮影を行い、各伝本の装丁を確認し、原装のままか、もしくは後の所蔵者によってあまり手を加えられていない資料の選出作業をした。これら刊行当時の姿を留めている伝本は、初期草双紙の刊行状況を正しく読み取る材料となるものである。それぞれが初摺・後摺のいずれにあたるものか、後摺ならばいつごろ刊行・販売されたものと推定できるかなどを丁寧に調査し、情報を蓄積・整理することで、国内外に様々な状態で保存されている伝本を調査する際に正しく評価するための基準となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年8月にロンドン・パリの調査を行い、希望の調査を遂行し、一定の成果を得たといえる。2019年度はほかに東北大学附属図書館狩野文庫所蔵の草双紙について、原本での悉皆調査を予定していたが、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の状況に配慮し、2019年度末までの調査については実行が叶わず、新年度を迎えて以降も調査が実現できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
国内外の状況が落ち着き、出張調査を実行する環境が整い次第、草双紙の調査を実施する。 原本調査ができる状況になるまでは、インターネットで画像公開されている情報について収集し、装丁等から情報を整理する作業を進めていく。また、新規に収集した草双紙の書誌情報の位置づけを確定するための資料として、草双紙・浮世絵等江戸の出板物に関する書籍・美術館等の展示目録を購入する。 2020年度については、ニューヨークパブリックライブラリー・シカゴ美術館について資料調査を行う。享保期刊行とみられる草双紙の存在が見込まれ、赤本・黒本・青本の定義や草創期の草双紙の装丁に関する問題を検討する材として、悉皆調査する。また、天理図書館・蓬左文庫・南山大学・西尾市立図書館についても、装丁を中心とした原本調査を実施する。 2021年度については、ホノルル美術館リチャード・レイン旧蔵本について調査を行う。原装を留め、三田村彦五郎等刊行当時の読者の書入れが残る伝本が含まれる見込みである。台湾大学図書館についても原本調査する。また、マイクロフィルムでの閲覧を済ませている関西大学図書館所蔵草双紙について、原本での悉皆調査を完了させる。中之島図書館についても草双紙の装丁について悉皆調査を実施する。また、前年度に引き続き、研究上必要な書籍・展示目録を新規購入する。 2022年度については、国内のコレクションについて、再摺本の調査を中心に再調査を行う。松浦資料館については再摺本と見込まれる、後期草双紙のコレクションに合綴されている黒本・青本の再調査を行う。上田市立図書館・京都大学・立命館大学・京都府立資料館についてはこれまでの調査分を含め、悉皆調査する。また、前年度に引き続き、研究上必要な書籍・展示目録を新規購入する。 以上の調査に並行して、分析の成果を取りまとめ、所属学会等で口頭および論文発表を行う。
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Causes of Carryover |
国内の草双紙所蔵機関についての調査が実施できなかったため。 次年度は本年度調査を実施できなかった東北大学図書館の他、天理図書館、蓬左文庫、南山大学、西尾市立図書館について、草双紙の悉皆調査を実施する予定である。ニューヨークパブリックライブラリー・シカゴ美術館についても資料調査を行う。また、研究上必要な書籍・美術館等の展示目録を、草双紙の書誌情報の位置づけを確定していく資料として購入する。加えて、インターネット公開されている草双紙に関する情報の収集・整理のため、外付けハードディスク等の記憶媒体を購入する。
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