2019 Fiscal Year Research-status Report
中世天台寺院における児灌頂儀礼の生成と流伝に関する研究
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19K13076
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Research Institution | Osaka Electro-Communication University |
Principal Investigator |
辻 晶子 大阪電気通信大学, 共通教育機構, 特任講師 (40825428)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 児灌頂 / 白翁守明 / 長楽寺 / 談義所 / 体内口決 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、談義所の学僧による児灌頂伝本の書写活動に焦点を当て、その実態を明らかにすることを目指すものである。 2019年度は、前半に資料を網羅的に収集して研究環境を整えた上で、後半に児灌頂伝本の書承の流れを調査すべく、伝本の書写者と書写場所について分析を行った。特に、児灌頂儀礼の生成の場として推定される群馬県太田市の長楽寺や、児灌頂伝本の書写活動の場となったであろう茨城県桜川市の月山寺等について、文献上の調査を進めた。 ただし、2019年度後半に予定していた実地踏査については、新型コロナウィスル感染拡大の影響を受けて、実現できなかった。 そこで、2020年度の計画である、長楽寺33世白翁守明と児灌頂との関連性に関する研究の下準備に着手し、長楽寺のような禅密兼修の場における教学形成に焦点を当てた考察を行った。具体的には、児灌頂思想の中心ともなる梵字「阿」に着目し、「阿」に関する呼吸観法が説かれた『秘伝抄』(西教寺蔵)の読解を進めた。さらに、『秘伝抄』に合写された『体内口決』(西教寺所蔵)の分析を通じて、談義所での書写の実態や、阿字と密接に関わる胎生論「赤白二滞」説と禅との融合に着目した研究を行い、その成果を2020年3月に発表した(奈良女子大学『叙説』第47号) このように、児灌頂の生成と伝本の書写活動を考察するとともに、禅密兼修、「赤白二滞」という中世の大きなうねりの中に児灌頂を位置付け直す試みを行った。実地踏査が実現可能となれば直ちに資料所蔵機関に趣き、さらに研究を深化させ、今後の研究成果の公開に活かす予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度計画のうち、図書や論文、関連資料等の資料の収集を行い、文献上の調査は進めることができたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、資料所蔵機関における実地踏査が実現できなかった。本研究の中心となるのは実地踏査であるため、大きな打撃を受けたと言える。 2020年度計画を少し早めて着手することで研究活動を維持したが、多くの調査時間を要すると思われる実地踏査が実行不可能であったため、進捗状況はやや遅れていると判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染拡大による社会混乱が収束し、実地踏査が可能となれば、直ちに資料所蔵機関に趣き、児灌頂伝本の書承の流れに関する調査研究を行い、2019年度に実現できなかった研究のリカバーをはかる予定である。 それとともに、2020年度計画である白翁守明と長楽寺の天台教学形成についてさらなる文献調査を推し進め、児灌頂の成立時期を推し測ることを予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大を受け、2019年度に予定していた2回の関東出張が実行不可能となったため。社会情勢が落ち着いたら、2020年度に調査出張の出直しを予定している。
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