2019 Fiscal Year Research-status Report
〈判官物〉の語り物の基礎的研究―幸若舞曲・説経・古浄瑠璃の影響関係の究明
Project/Area Number |
19K13084
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
笠原 汐里 (粂汐里) 国文学研究資料館, 研究部, 特任助教 (50838050)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 幸若舞曲 / 説経 / 古浄瑠璃 / 源義経 / 語り物 / 絵巻 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、〈判官物〉に分類される語り物(幸若舞曲、説経、古浄瑠璃)の作品について、次の四つの段階で研究を推進する。 (1)国内外の〈判官物〉作品の調査、書誌・画像データの収集(2)語り物の〈判官物〉の上演記録の調査(3)語り物の〈判官物〉テキストの比較検討(4)〈判官物〉絵画の比較検討 令和元年度は、(1)を重点的に行い、逸翁美術館にて『〔牛若丸烏帽子絵詞〕』『〔一若丸絵巻〕』を、宮崎県文書センターにて異本系『常盤問答』の資料調査を実施した。また新たに東北大学、宮城県立図書館、岩瀬文庫に所蔵される幸若舞曲関連資料の調査を予定していたが、このうち実行できたのは東北大のみで、他は新型コロナウィルスの流行により閲覧不可となった。 また、当初の計画に加えて、国文学研究資料館にて企画展「戦国武将たちの愛した文学―幸若舞曲―」を開催することが決まり、準備を進めていたが、開催時期が令和二年度の秋に延期となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の主な成果は①『烏帽子折』を題材とする絵巻の調査とその結果報告、②異本系『常盤問答』の諸本調査および翻刻紹介、の二つである。 ①は源義経の元服を主題とした幸若舞曲の一作品である『烏帽子折』について、その諸本を調査し、最古の本文系統をもつ絵巻群の成立背景を明らかにしたものである。この最古の絵巻群としては手錢記念館所蔵の、屏風に張り付けられた『烏帽子折』の絵巻、逸翁美術館蔵『〔牛若丸烏帽子絵詞〕』(零本)、国文学研究資料館が所蔵する断簡一枚がある。年度中、いまだ調査を終えていなかった逸翁美術館蔵本と、国文研蔵本の原本調査を終えることができたので、手錢記念館蔵本を含めた3点の絵巻本文を比較検討し、最も状態の良い手錢記念館蔵本を中心に、この絵巻群の成立背景について解説を執筆した。また、その成果の一部を第三回EAJS(ヨーロッパ日本研究協会)日本会議にて発表した。 ②の異本系『常盤問答』とは、源義経の母・常盤御前を主人公とする、幸若舞曲、古浄瑠璃の一伝本である。2017年より継続して行ってきた諸本調査の経過報告として、異本系の一本である広島県立文書館寄託尼子家文書本の資料紹介を行った。論をまとめるにあたり未調査の伝本の調査を行ったが、竹下家文書蔵本については原本調査がかなわず、宮崎県文書センターの写真帳によって閲覧を行った。また岩瀬文庫蔵本は、上記の理由により調査がかなわず、マイクロフィルムによる確認にとどまった。これらの伝本については、新たに所在を確認した伝本を含めて、次年度以降調査を実施したい。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は国内を中心に原本調査を重ねてきたが、次年度以降は、新型コロナウィルスの影響下で従来通りの研究活動が困難であると見込まれる。そこで、(1)の研究段階は十分に進んだとはいいがたいが、次年度は原本調査の回数を絞り、これまで調査収集することのできたデータをもとに、(2)~(4)の段階に取り組むこととする。また、所属機関である国文学研究資料館の幸若舞曲関連資料を重点的に整理、紹介するなど、調査が可能な機関から資料のデータ収集に取り組みたい。 また、博士論文を元にした書籍刊行のため、令和二年度の研究公開促進費の公募にむけて、論文執筆や学会発表を予定していたが、相次ぐ調査・研究機関の閉鎖、学会等の延期や中止により、研究成果をまとめることが難しい状況にある。社会状況と照らし合わせつつ慎重に検討し、場合によっては一年延期することも考えたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの流行により、予定していた国内出張等(2020年3月20日岩瀬文庫。当文庫の閉鎖のため)は中止となり、2月~3月の研究活動も縮小を余儀なくされたため。所属機関の許可が下り次第、主に令和二年度の旅費として使用したい。
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Remarks |
粂汐里「国文研千年の旅「雀の夕顔絵巻貼付屏風」」(読売新聞多摩版、2020年1月8日)
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