2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K13086
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
成田 健太郎 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (20770506)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 王羲之 / 蘭亭 / 何延之 / 伝奇 / 衛夫人 / 古来能書人名 / 書断 / 杜甫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題にかかる成果として、論文「固有名をもつ器物の一代記:『蘭亭記』をめぐって」(『埼玉大学紀要(教養学部)』 55-1,pp.237-245,2019年10月)を発表した。また、国内学会において「王羲之と衛夫人の師承関係について」と題する口頭発表を行った(書論研究会第41回大会,2019年8月25日)。前者の論文で取りあげた文献『蘭亭記』は、唐の何延之の著として伝えられ、王羲之の代表作とされる書跡『蘭亭』の履歴を伝える文献であるが、その内容の信憑性には疑問もあり、むしろ伝奇テクストとしての分析が求められる。『蘭亭記』は、個別の器物を主題とし、その固有名と「記」の組み合わせをタイトルとする点が独特で、そのようなテクストが実現した環境として、出来事を叙述する「伝」と「記」の存在、なかでも漢訳仏典の写本を主題とした「記」の存在、そして伝奇テクスト『古鏡記』の存在が注目される。また、『蘭亭記』は異なる物語を書跡の名の下に包摂した伝奇テクストであり、今後の研究はそのような構造への理解を前提として進められることが望まれる。以上のように、『蘭亭記』を伝奇テクストと認定し、その基本的性質を指摘・整理したうえで、書文化の受容・伝播において説話が担った役割の一端を明らかにした点は、本研究課題の成果として特筆するに値する。後者の発表では、王羲之が幼時衛夫人という女性に師事したという伝承を取りあげ、その伝承の成立過程を検証するとともに、そのような伝承が作られ定着した要因を説話の機能という側面から考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度中には、上記の成果のほかに、2019年5月24日に中華人民共和国浙江省紹興市で開催された国際学会「二王与“二王学”的構建研討会」に参加して口頭発表を行う予定があったが、本人が直前に負傷(骨盤骨折)したことから渡航を断念した。同会議のために提出した論文は、当地にて発行される会議論文集に収録され、目下COVID-19のために遅滞しているものの、近々公刊される予定である。以上の成果をも含めて考えるならば、進捗はおおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度中と同様、論文の公表および学会での口頭発表を行う予定である。上の「現在までの進捗状況」に記した国際学会「二王与“二王学”的構建研討会」の会議論文の公刊が2020年度中に見込まれるほかに、すでに1本の論文を完成して国内学会に投稿しており、また2020年度中に国内学会での口頭発表を1件予定している。
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Causes of Carryover |
2019年度中の予算消化において本人の意識の低さのため誤差が生じたことは痛恨の極みである。2020年度に繰り越してより研究資料の整備等に使用し、高いレベルの研究に活用したい。
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Research Products
(2 results)