2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K13086
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
成田 健太郎 京都大学, 文学研究科, 准教授 (20770506)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 王羲之 / 衛夫人 / 蘭亭 / 何延之 / 伝奇 / 墨跡本 / 刻石本 / 定武本 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、書の達人として著名な東晋の王羲之は衛夫人という女性に師事したことがあると伝える文献資料を精査し、そのような伝承の成立過程として、唐の中葉ごろ、すなわち衛夫人・王羲之の在世当時から三世紀以上経過してから、両人の師承関係が通俗的な伝説として発生し、唐を代表する書論『書断』に採用され、さらに唐末の『法書要録』に至って、テクストとしても強力に固定されたという仮説を提示した。この研究成果については、国内学会で口頭発表するとともに、論文を国内学術雑誌に発表し、また中国語論文を海外(中国)開催の国際会議に提出し、プロシーディングスとして出版された。 第二に、王羲之の代表作『蘭亭』の履歴を伝える唐の著作『蘭亭記』を伝奇テクストとして分析し、そのユニークな点として、個別の器物を主題とし、その固有名と「記」の組み合わせをタイトルとするところを指摘した。さらに、そのようなテクストが実現した環境として、出来事を叙述する「伝」と「記」の存在や、伝奇テクスト『古鏡記』の存在を指摘した。この研究成果については、論文を所属機関(当時)の紀要に発表した。 第三に、王羲之の代表作『蘭亭』をめぐって唐から宋にかけて交わされた種々の伝承について、書跡としての流通・伝播の様態と対比しつつ考察し、『蘭亭』は唐・宋いずれの時代にも市中において自発的に生産され流通したが、他方同時代の言説では皇帝の専有から偶然に流出したものとしてしばしば語られるという興味深いギャップを明らかにした。この研究成果については、論文を国内発行の論文集に発表した。 以上の研究成果はいずれも、今日も書の名人として尊重される王羲之あるいはその書跡を文化的に価値づけてきた言説に厳しい批判を加え、その延長線上にある我々の価値観に対しても捉え直しを迫るものである。また、それを中国古典学の手堅い研究手法によって遂行した点に高い価値を認めうる。
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