2021 Fiscal Year Research-status Report
明内府制通俗彩絵本から見る近世中国通俗文学と視覚文化の関係
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19K13089
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
松浦 智子 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (40648408)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 明代内府 / 通俗文学 / 彩色絵図本 / 視覚文化 / 西遊記 / 岳飛 / 宦官 / 書肆 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、〔明内府〕制の彩絵通俗文学、すなわち①彩絵『出像楊文広征蛮伝』、②彩絵『大宋中興通俗演義』、③彩絵『全像金字西遊記』、④彩絵『春秋五覇七雄通俗列国志伝』の作成・受容の過程・背景について、視覚文化と宮廷、坊間書肆の動きに着目しながら検証することで、明後期の通俗文学の受容者層やその制作側の様態の一端を明らかにしようと試みるものである。 本来、研究の最終年度にあたる21年度は、北京大学図書館蔵の③僚本『唐玄奘法師西天取経全図』の調査を行った上で、③の検証を進める予定であった。しかし、20年度に続き21年度もコロナの状況が改善しなかったため、北京での実見調査は叶わなかった。そこで、計画を変更して、オンライン資料や国内資料を活用し、以下の調査・分析を行った。 まず、③の出現背景を探るべく、③と類似する体裁を持つ彩色絵図本を網羅的に調査分析し書誌情報を一覧表化した。その上で、特に③と内容・要素的に共通項を持つ、仏道の彩絵教典や宝巻等(『目ケン連尊者救母出離地獄生天宝巻』、『九天応元雷声普化天尊説玉枢宝経』他)について、周辺諸資料を用いて追加調査を行った。結果、③の出現背景に宮中の妃嬪や公主、宦官、皇太子も関与する政治的、宗教的な動きが存在し、さらに宗教的動きの一部には、明後期無異教系の各種宗教団体も関わっていた可能性があることを明らかにした。本成果は、21年10月開催の台湾国立中興大学のシンポジウム(オンライン参加)にて「明代内府絵図本文化初探:以西遊記的彩色絵図本為中心」として口頭発表した。この他、②と関係の深い岳飛文芸の日本における展開を絵図文化との関わりから論じた「日本における“岳飛”文芸の展開」も、21年9月に学術雑誌『人文研究』にて発表した。 また、本研究はコロナの影響で研究計画を一年延長したが、22年度は③や④を中心に検証を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究一年目の19年度は、コロナ禍の影響もなく、研究対象の①彩絵『出像楊文広征蛮伝』②彩絵『大宋中興通俗演義』について、諸資料を用いて検証を順調に進めることができた。 しかし、二年目の20年度初頭よりコロナが蔓延したため、海外渡航はもとより、国内の中長距離移動にも制限がかかり、各図書館や研究機関へのアクセスが非常に困難となった。結果、北京大学図書館、中国国家図書館での彩色書籍の実見調査や、関西、東北、九州での関連資料の調査が行えず、研究に少なからぬ遅れが出た。 この状況は三年目の21年度も続いており、中国大陸へ渡航しての調査対象の実験調査は実質あきらめざるを得ない状況にあった。そこで、本状況に対処するため、ウェブ公開されている資料や国内、とくに近距離アクセスが可能な関東圏の研究機関(宮内庁書陵部、国会図書館、国立公文書館、東京都立図書館、東京大学東洋文化研究所、早稲田大学図書館他)に所蔵される関連資料(影印本、検証対象に関わる周辺の諸版本他)を積極的に活用しながら、③彩絵『全像金字西遊記』の成立背景や受容に関わる諸相について検証を行った。結果、③の制作や受容に、宦官や妃嬪らの政治的な意図や、宗教的な動きが介在し、後者については無為教系統の宗教団体の動きも関与していた可能性を指摘することができた。 ただし、本成果は③の周辺諸資料を総合的に用いて析出した成立背景や受容に関する知見であり、③のテキスト本体に関する検証を進めることができていない。また、同様の理由から④『春秋五覇七雄通俗列国志伝』の検証についても、あまり進展がなかった。そのため、三年目についても研究状況もやや遅れが見えたと言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
19年度末より始まったコロナ禍の影響で、現在も中国大陸への渡航は難しい状態にある。ただし、日本国内ではワクチン接種の進展などもあり、中長距離の移動が以前よりも緩和され、また各研究機関も徐々に外部調査者に対する門戸を広げはじめている。 これを受け、コロナ禍の影響により生じた20年度、21年度の遅れを補填するべく、22年度は、主に次のような方針で研究対象の検証を進めていく予定である:(1)デジタル資料・Web資料の積極的な活用、(2)国内各機関所蔵の版本他関連諸資料の実見調査、(3)影印本やその他諸資料の購入。 (1)については、中国国家図書館やフランス国立図書館を始め、世界各地の研究機関・図書館がWeb公開している資料を更に網羅的に利用していく傍ら、凱紀メディア他のデジタル検索図書を購入していく。これに加え、従来通り早稲田大学が設置する大型データベースも充分に活用していく。(2)については、コロナによる国内の行動制限が緩和されたことを踏まえ、内閣文庫や尊経閣文庫所蔵の④関連『春秋五覇七雄通俗列国志伝』諸版本といった関東圏の研究機関所蔵諸資料の調査を行う傍ら、京阪神や東北地方にも足を伸ばし、大阪杏雨書屋所蔵の明彩絵『本草品彙精要』の諸本や、東北大学図書館所蔵の③彩絵『全像金字西遊記』、奈良天理大学図書館蔵の明彩絵『仏母大孔雀明王経』他に関連する仏道経典などの調査を行う。また、これら(1)(2)の調査検証は、(3)で購入した資料を利活用するなかで行う必要がある。 一方、もし22年度下半期にコロナの状況が改善し、中国大陸への移動が可能になったならば、北京大学図書館にて③僚本『唐玄奘法師西天取経全図』を、中国国家図書案にて明彩絵『薬師本願功徳宝巻』他を実見調査し、テキストの分析を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
上述のように、コロナ禍によって21年度も当初計画していた国内、国外の長距離移動を伴う版本・諸資料の実見調査が行えなかった。さらに、国外学会での発表も対面形式からオンライン形式へと変更された。そのため、これらの旅費が発生せず、予定額と実際の使用額に差が生じた。 そこで、本研究では上記差額分を利活用すべく、研究期間を22年度まで一年延長した。この延長した一年間において、差額分を主に(1)デジタル書籍を含めた関連諸資料の購入、(2)国内長距離移動の旅費、の二項目に当て研究を進めていく予定である。また、22年度下半期にコロナの状況が改善されたならば、中国大陸へ渡航し、北京大学図書館や中国国家図書館での調査旅費や資料複写費にも差額分を充てていく予定である。
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Research Products
(3 results)