2021 Fiscal Year Research-status Report
放浪する黒人男性――物語構造と人種概念を軸としたフォークナーとエリスンの比較研究
Project/Area Number |
19K13097
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
桐山 大介 学習院大学, 文学部, 准教授 (60821551)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラルフ・エリスン / ウィリアム・フォークナー / アメリカ・モダニズム小説 / アフリカン・アメリカン文学 / 物語構造 / 人種問題 / アメリカ南部 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、『フォークナー』誌第23号に論文「見えない人間の故郷、ラルフ・エリソンの南部/南西部 」を発表した。この論文では、ラルフ・エリスンの第一長篇『見えない人間』に至るまでの創作の軌跡を追い、これまであまり注目されることのなかった、エリスン作品における「故郷」としての「南部/南西部」の抑圧に光を当てた。本研究の文脈では、それは黒人男性キャラクターの「放浪」という物語構造を確立するために必要な操作だったと理解される。フォークナー作品のように死をともなう帰還に帰着することなしに「放浪」を転覆的な可能性につなげるために、エリスンは主人公に擬似的な「死と再生」を繰り返し体験させるのだが、そのためには主人公が故郷およびそれに関わる過去を抑圧しれければならなかったのである。 当論文では、エリスンにとってこうした故郷の抑圧がエリスンの美学を欺瞞的なものにしてしまう可能性のある躓きの石でもあり、『見えない人間』以降の講演やインタビュー等でその欺瞞を深めていくとともに、未完成の第二長篇でそれを克服しようと葛藤している様が見て取れることを指摘した。 2022年度には、「南部/南西部」を主要な舞台とし、「放浪」とともに故郷の再訪と抑圧された過去の掘り起こしを描いた第二長篇において、エリスンが前作の限界を乗り越え「放浪する黒人男性」の物語構造をより十全なものしようと格闘する様をとらえ、本研究を完成させることを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一昨年度に引き続き、新型コロナウィルスの影響で研究の進展に不可欠な資料の入手が遅れているため。
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Strategy for Future Research Activity |
資料の収蔵されているアメリカ議会図書館では資料閲覧が条件付きで再開されているため、今年度は現地調査もしくはデジタルデータの注文を通じてエリスン第二長篇の草稿を手に入れ、その調査を基にエリスン第二長篇に関する論文を書き上げ、本研究を完成させる。
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Causes of Carryover |
アメリカ議会図書館に所蔵されている資料調査にあてていた予算が新型コロナウィルスの影響で使用できなかったため。現在は資料閲覧およびデジタルデータ取り寄せが条件付きで再開されているので、現地調査の旅費もしくはデジタルデータの購入費用にあてる。
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Research Products
(1 results)