2023 Fiscal Year Research-status Report
放浪する黒人男性――物語構造と人種概念を軸としたフォークナーとエリスンの比較研究
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19K13097
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
桐山 大介 学習院大学, 文学部, 准教授 (60821551)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ラルフ・エリスン / アフリカン・アメリカン文学 / アメリカ南部 / アフリカン・アメリカン文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウィルスの影響で延期になっていた、アメリカ議会図書館における資料調査を実行した。今回調査したのは主にラルフ・エリスンの未出版の第二長篇小説の草稿である。特に、晩年において何度も改稿が試みられたワシントンDCおよびオクラホマシティを舞台としたシーンの草稿について、重点的に調査を行った。その結果、執筆後年におけるエリスンの南部・南西部におけるネイティヴ・アメリカンの存在に対する意識の高まりを確認することができた。 本研究の文脈に照らせば、それは放浪する黒人男性と故郷との関係の問い直しにつながるものである。エリスンのキャリア初期においては「政治的課題」として捉えられていた「国家の故郷」たる南部は、『見えない人間』完成稿において民俗的文化に基づく美学の故郷として書き換えられ、それはエリスンにとっての政治的可能性の源泉となった。さらにその後、エリスンは自らの故郷である南西部の地オクラホマを、そのような美学によって成り立つ、自由と可能性に満ちた一種のユートピアと捉えるようになる。しかし後年のエリスンの第二長篇改稿の過程が示すのは、楽観的な南部・南西部観に対する自己批判的な視点である。それは黒人たちと同様に、あるいはそれ以上に苦しみの歴史を負ったネイティヴ・アメリカンの描写を通じてなされ、それによって「故郷」の概念はさらに複雑化されることになる。 しかし、エリスンのネイティヴ・アメリカン描写に問題がないわけではない。ネイティヴ・アメリカンの苦難の歴史は、時に黒人の苦難を一種比喩的、類推的に表すために利用されてしまい、それ自体の重要性が薄められてしまうことがある。 エリスンの改稿過程の調査は、このようにエリスンの「故郷」をめぐる後年の発展と新たな課題を明らかにすることになった。2023年度はまたこれらを論文にまとめる準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの影響で、本研究に必須な資料調査が遅れたため。当該調査は2023年度に実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度に実施した資料調査に基づき、エリスンの第二長篇の特に晩年における改稿過程に着目した論文を執筆し、本研究を完成させることが目指される。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で助成金使用計画に乱れが生じたため。残りの助成金は新しい研究書等の図書資料の購入にあてられる予定である。
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