2020 Fiscal Year Research-status Report
イギリス少女雑誌における「新しい少女」と「新しい読者」の形成
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19K13111
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
牟田 有紀子 城西大学, 語学教育センター, 助教 (20801799)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イギリス少女雑誌 / 新しい少女 / 読者共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に沿って、現在所有している分のGirl's Own Paper, Atalanta, Girl's Realmにおけるコンペティションの役割について調査した。いずれの雑誌でも文芸創作、手芸、絵画、知識を問うクイズなど様々なコンペティションが行われたが、特に賞金・賞品付きのコンペティションは応募数が多く、紙面の活性化に一役買った。 賞金・商品付きコンペティションでは、入賞者の名前、住所、年齢が公開され、1890年代から1900年代には顔写真が掲載されることもあった。そのため、コンペティションの導入によって、単に読者の間で何が流行しているのか、どんな話題が読者の興味を引くのかということだけではく、どこに住むどんな人物が「少女」という自覚をもってその雑誌を読んでいるのかという、リアルな読者の姿が浮かび上がってきた。しかし同時に、雑誌はコンペティションへの応募資格に年齢や居住地の制限を設けることによって、雑誌の理想の「少女」を定義しようと試みたが、それに当てはまらない読者の応募・入賞が相次ぎ、「少女」を定義することの困難と読者共同体の拡大が明らかとなった。 いずれの雑誌でも一番盛り上がったのは、読者の自作のエッセイや文芸作品のコンペティションである。特に女性観・少女観を問う課題は応募数が多かった。雑誌は外的要因によって「少女」を定義することには失敗したが、読者自身に「少女」とは何者かを語らせ、どんな意見が「優等」か評価を付けることによって雑誌が求める少女像を作り上げることを可能にした。 コンペティションはただの遊びではなく、読者を雑誌という少女のための空間に呼び込むための装置であり、読者にとっては楽しみながら承認欲求を満たしてくれる場であった。コンペティションを介して、雑誌と読者が相互補完的な関係性を結んでいることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大によって、2020年2月以降の研究活動が滞っている。本研究は、資料の発掘と分析の両方を目的としているが、資料の発掘をすることができなくなっている。本来であれば2020年も大英図書館で資料を収集するはずだったが、それが叶わないため、現在収集済みの資料で分析を行った。集めるはずだった資料があれば、より分析の幅が広がった可能性が高いため、現在進捗状況は遅れていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に渡英が可能になれば、2020年の分まで資料を収集したい。しかしまだ大いに渡英できない可能性があるため、その場合は所有している雑誌で有料添削サービスによる少女観の構築と修正を調査する予定である。主にMonthly Packetの収集が遅れているため、Girl's Own Paper, Atalanta, Girl's Realmの比較と分析になるだろう。資料の収集ができない分、世紀転換期における少女観や子ども観の変化を同時代の児童文学と比較して、いかに雑誌における少女観と読者共同体が特異なプロセスを経て形成されているのかを明らかにすることも検討している。
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Causes of Carryover |
本来イギリスの大英図書館で2週間程度の資料収集をするはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大によりそれを断念したため、次年度使用額が生じた。 2021年に渡英が可能であれば、次年度使用額と2021年度の経費を合わせて、イギリス滞在期間を当初の計画よりも長くとって、多くの資料を発掘・収集したい。もし2021年度も渡英できる状況にならなければ、現存する雑誌の実物を購入することも検討している。また当初の計画通り、19世紀末から20世紀初頭にかけての少女文化や定期刊行物研究に関する二次資料を購入する予定である。
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