2019 Fiscal Year Research-status Report
James Joyce and Irish Diaspora: Haunting History as a Nightmare
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19K13112
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Research Institution | Toyo Gakuen University |
Principal Investigator |
小林 広直 東洋学園大学, グローバル・コミュニケーション学部, 講師 (60757194)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド / ディアスポラ / ユダヤ / 亡霊 / トラウマ / 亡命 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、7月にアイルランドのダブリンで開催された国際学会(IASIL)で口頭発表を行った。『ユリシーズ』の主人公の一人であるスティーヴン・デダラスの死んだ母と、作品内で埋葬されるパディ・ディグナム(もう一人の主人公、レオポルド・ブルームの友人)の両者を亡霊、および動物という観点で共通性を見出し、大英帝国とカトリック教会という「二人の主人」に支配されたアイルランド人の歴史的不遇が反映されているという論旨であった。現地のアイルランドの研究者だけでなく、世界中のアイルランド文学の研究者と交流し、議論や意見交換ができたことは大変有意義だった。 また2019年6月より、2か月に1度のペースで、一般読者を対象にした読書会を日本ジェイムズ・ジョイス協会の若手研究者2名(南谷奉良氏、平繁佳織氏)と共に主催し(「2022年の『ユリシーズ』―スティーヴンズの読書会」)年度内に第1~第5挿話までを再読した。その際、各挿話を改めて精読しただけでなく、先行研究にも目を通し、各回のあらすじを書き、読みどころを解説した。本会は所謂学会ではないが、研究成果を広く国民に還元するという科研費の本義を鑑みると、一定の貢献ができたと考えている。 本研究テーマとの関連では、19世紀以降のアイルランドの「民族離散(Irish Diaspora)」に関して、一橋大学の金井嘉彦教授のゼミに参加することで、George MooreやPadraic Colum(彼らもまた広い意味で「亡命作家」に数えられる)のテキストを精読する機会があったことは非常に有意義であった。また、Padraicの妻、Mary ColumのLife and Dreamを精読することで、20世紀初頭にアメリカへ移住した夫妻が多くの文学者と交わりながらどのような経験をし、旧世界と新世界の文化的差異を考察していたかを学ぶことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の通り、文学作品の精読については幅広く実施することができたが、Irish Diasporaの先行研究については今後も継続的に資料を収集し、調査を続ける必要があると考えられる。また、当該年度は論文化ができなかったため、次年度はテクストの精読と並行して、アウトプットにも時間を費やしたい。予定していたアイルランド、ダブリン(国立図書館及びUCD/TCDの図書館)における資料収集についても実施することができなかったため、次年度の課題としたい。 ジョイス研究は、複雑で難解と名高い作品の分析に多くの時間を割かれてしまうために、他の作家との関わりと共に同時代のコンテクストの研究へと開いてゆく必要がある。継続して、ジョイスの先行作家、あるいは同時代のアイルランド作家のテクスト研究を行って行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年に『ユリシーズ』は出版100周年を迎える。その記念論集のために、現在2か月に1度のペースで、日本ジェイムズ・ジョイス協会の有志を中心に、研究会を行っている。本会に継続的に出席をしながら最新の研究動向を踏まえた上で、本研究テーマである「民族離散」の観点から『ユリシーズ』論を完成させる予定である(20年末に第一稿の締め切りが設定されている)。具体的には、主人公のレオポルド・ブルームがユダヤ系アイルランド人であることの意義を、彼の祖父がハンガリー系ユダヤ人であり、父がプロテスタントに改宗したユダヤ人であるという人物造形から改めて検証し、19世紀から20世紀初頭の反ユダヤ主義の言説を踏まえながら分析していきたい。これによって、従来論じられてきたアイルランド人とユダヤ人が共有する民族離散という歴史的意義を再考し、作者自身が故国から「自発的亡命」をしながらも、アイルランド(ダブリン)の街と人を作品内で再構成し続けたことの意味が再検討されるであろう。 また、上述の『ユリシーズ』の読書会を継続的に開き、明石書店のWEBマガジンでの記事(「ジョイスの手――はじめての『ユリシーズ』」)の掲載も続けることで、本研究費の支援によって得られた知見を、多くの一般読者に幅広く「還元」していきたい
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Research Products
(3 results)