2019 Fiscal Year Research-status Report
The Temporality of Social Criticism: Nostalgia and Its Paradox in Dystopian Fiction and Science Fiction
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19K13119
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
中村 麻美 立教大学, 文学部, 助教 (80827709)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ディストピア文学 / ノスタルジア / フェミニスト・ディストピア / カズオ・イシグロ / クィア理論 / フェミニズム / ジェンダー・セクシュアリティ / サイエンス・フィクション |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の第一目標は、Kazuo Ishiguroの_Never Let Me Go_(2005)におけるノスタルジアを主題とした論文の出版であったが、学術雑誌_Science Fiction Studies_のSFとノスタルジアをテーマとした特集号での刊行が決まった。本論文ではクィア理論における未来性や否定性といった概念を援用しながら、_Never Let Me Go_におけるノスタルジアを単なる虚偽意識に還元することを避ける一方、ノスタルジアを通して、過去そのものが現前する可能性を吟味している。 またLondon Centre for Interdisciplinary Research主催のGender Studies Winter Schoolに参加し、クィア・ノスタルジアについて研究発表すると共に世界各国からの研究者らと知識を共有した。The Bishopsgate Instituteではアーカイブ調査を行い、進歩的歴史観をクィアする契機としてのノスタルジアに対する考えを深める上で重要な知見を得た。 一方3月には論文「ジョージ・オーウェル『一九八四年』とナオミ・オルダーマン『パワー』におけるレイプ文化の読解」を発表し、ノスタルジア研究と並行して行っているフェミニスト・ディストピア研究を進めることができた。 さらに今年3月に開催予定であった学会、“Feminist/Queer Utopias & Dystopias--Alternative Worlds Imagined Through Non-Normative Desires and Bodies”の主要オーガナイザーの一人として働き、英TVドラマ_Black Mirror_の"San Junipero”におけるクィア・ノスタルジアについての研究発表を行う予定であった(COVID-19のため延期)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の第一目標であった_Never Let Me Go_に関する論文出版に関しては出版先の雑誌が決定し、執筆の方も進んでいる。ただしその他の目標(博士論文をアップデートしたものを単著として出版する計画、そして、Alasdair Grayの_Lanark_研究)については、他の論文執筆・研究発表や学術イベント開催準備の影響で遅れが出ている。一方、研究計画にも含めているUrsula K. Le Guinの作品を始めとしたフェミニスト・ディストピアの研究に関しては、資料収集やテーマの整理が進んでおり、2020年度内に研究発表を行う予定である。さらに、『一九八四年』に関する論文集に寄稿することも決まっており、そこではトラウマとノスタルジアの関係性をフェミニスト・ディストピア作品と比較しながら論じる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は博士論文をベースにした単著出版計画を進め、またAlasdair GrayのLanark研究に関しては、グラスゴーや、ユートピア主義者Robert Owenの実験的共同体が存在したニューラナークにおけるフィールド調査を9月に行う予定である。またできれば本年度中に、延期された上記の学会の開催に合わせ、クィア・ノスタルジアを専門とする教授を招聘した上でセミナーを開催し、自身の研究について詳細なフィードバックを得たいと考えている。ただ上記の計画の内、自身や他の研究者の海外移動を伴うものについては、COVID-19の影響を見合わせた上、慎重に判断していきたい。特に海外研究者らとの交流に関しては、オンライン上での開催も積極的に検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2月に行ったロンドン出張の渡航費が予想を下回ったこと、また、モノグラフの執筆がそれほど進まず、英文校正サービスを利用する必要がそれほどなかったことが挙げられる。 次年度使用計画としては、以下の5つの項目に関する費用を計上予定である。 1.グラスゴー・ニューラナークへの出張、2.招待教授によるセミナー開催、3.英語校閲サービス、4.学会出席、5.書籍・論文とPC関連機器購入
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