2023 Fiscal Year Annual Research Report
The Temporality of Social Criticism: Nostalgia and Its Paradox in Dystopian Fiction and Science Fiction
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19K13119
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中村 麻美 神戸大学, 国際文化学研究科, 講師 (80827709)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ノスタルジア / ディストピア / サイエンス・フィクション / スペキュラティブ・フィクション / ジェンダー / マーガレット・アトウッド / カズオ・イシグロ / サイボーグ |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の研究実績として代表的なものを以下三点挙げる。①加藤めぐみ教授(都留文科大学)と共同編集した論集『マーガレット・アトウッド『侍女の物語』を読む――フェミニスト・ディストピアを越えて』(水声社)は版権獲得の問題から出版が遅れていたが、本年度12月に出版にこぎつけることができた。加えて、日本ヴァージニア・ウルフ協会の3月例会において本論集の合評会を行った。研究代表者は、『侍女の物語』(1985)の風刺対象であるノスタルジアを情動的基盤とした伝統的性役割の復活が、アトウッドの他のディストピア作品――マッドアダム三部作やThe Heart Goes Last(2015)、そして短編‘Freeforall’(1986)――に通底していることを確認した。また、アトウッドのディストピア小説がカナダではなくアメリカを舞台とする傾向にあることも植民地主義の観点から考察した。②Science Fiction Research Association主催の国際学会においてPei Zhang(張沛)氏(陝西師範大学)との口頭発表を実施した。本発表では紀大偉の『膜』(1995)とカズオ・イシグロの『クララとお日さま』(2021)をサイボーグ・ライティングとして越境文学の視点から論じながら、両作品が核家族における支配関係、(感情)労働の搾取、優生思想、セクシズムなどに対する警鐘の物語として機能することを明らかとした。本発表に基づく国際共著論文の出版を本年度中に予定している。③前年度の研究発表「オーウェル『空気をもとめて』における帰郷(の失敗?)――アトウッド『浮かびあがる』と比較しながら」を論文化し発表した。ノスタルジアを論じる際見過ごされやすい「痛み」の問題に着目しながら、有名なディストピア作家である著者らの帰郷小説における再生のモチーフ、そして記憶とエコロジーの関係性について明らかにした。
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