2020 Fiscal Year Research-status Report
J. R. R. トールキンの中世英語英文学研究と「ファンタジー」創作を巡って
Project/Area Number |
19K13124
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
岡本 広毅 立命館大学, 文学部, 准教授 (10778913)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 中世英語英文学 / トールキン / ガウェイン卿と緑の騎士 / ファンタジー / ブリテン建国神話 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き、J.R.R. トールキンの中世英語英文学研究とファンタジー創作の関連性について調査した。1953年にWilliam Paton Ker記念講演で発表されたSir Gawain and the Green Knight(『ガウェイン卿と緑の騎士』)は、1983年に出版されたThe Monsters and the Critics and Other Essays (Christopher Tolkien 編) に収録されることで初めて日の目を見たこともあり、他の学術著作と比べてあまり注意が払われてこなかった。本研究では本作への関心の所在とその解釈方法に着目し、初版校訂本の序文や註釈、現代英語訳、そして『妖精物語について』におけるファンタジー文学論も視野に入れ、トールキンのガウェイン論を複合的に考察した。これらの一端が『中世英語英文学研究の多様性とその展望:吉野利弘先生 山内一芳先生 喜寿記念論文集』(菊池清明・岡本広毅編)所収の論文「J.R.R.トールキンの「ガウェイン論」再考―“the air of ‘faerie’” の効用を巡って」に反映できたことは一つの成果となった。また、同書では今日の中世英語英文学研究を巡るアプローチを概観したが(「中世英語英文学研究における多様な視点と研究方法」)、これは20世紀初頭、英文学研究の黎明期におけるトールキンの研究者としての姿勢の理解を深めることとなった。その他、中世英語英文学研究に関わる研究発表も行ったが、とくに「ゴグマゴグ討伐とブリテン建国:年代記とロマンスにおける巨人像の変遷」(日本中世英語英文学会シンポジウム)では、巨人表象を通したブリテン島建国神話形成の一端を考察した。ブリテン島のルーツを巡る建国神話や後のアーサー王伝説と関わりは、トールキンのファンタジーの源泉として追究されるべき課題である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ここ数十年で出版されたトールキンに関する二次文献の調査や整理はできているものの、一次資料(原稿など)に基づく現地でのリサーチを行えていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、トールキンの中世英語英文学研究を土台とする創作とその大衆化の過程、多様な展開の考察を目指している。トールキンのファンタジーの源泉である『ガウェイン卿と緑の騎士』に関しては日本でも多くの翻訳が出版されているが、日本での受容と広がりについても整理し、学術的出版物だけでなく児童文学やアニメ、マンガ、ゲームといった大衆文化にも目を向けていく必要がある。そのため、引き続き文献資料の読み込みを進めるとともに、本研究分野に見識のある研究者と議論を重ね、特に20世紀の研究の推移や、日本におけるファンタジーの受容との関わり合いなどを深く掘り下げていく。上記の調査の結果を学会、論文で発表する予定である。
|
Causes of Carryover |
当初の研究計画ではイギリスでの現地調査を実施する予定であったが、2020年2月からの新型コロナウィルスを巡る状況のために難しくなった。現時点で2021年度現地調査についても不透明であるが、状況が改善次第、検討したい。なお、2021年度も旅費の執行が難しい場合は、文献調査を中心とした別の研究調査方法をとることとする。
|