2021 Fiscal Year Research-status Report
J. R. R. トールキンの中世英語英文学研究と「ファンタジー」創作を巡って
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19K13124
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
岡本 広毅 立命館大学, 文学部, 准教授 (10778913)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アーサー王物語 / ファンタジー / 中世主義 / 国際中世主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、J.R.R.トールキンの中世英語英文学研究とファンタジー創作の関連性について調査を進めた。特にトールキンが研究対象とした『ガウェイン卿と緑の騎士』(以後SGGK)の受容過程を、中世主義の系譜の中で検討した。現代のアーサー王物語は、15世紀にトマス・マロリーが著した『アーサー王の死』を主要な源泉としている。初期に印刷された『アーサー王の死』と異なり、SGGKは19世紀になってようやく日の目をみた。校訂本や翻訳、研究などを通して認知度と評価が高まる一方、本作はマロリーの『アーサー王の死』を基調とする枠組みの中にも組み込まれていった。別個に存在したロマンスがこの「マロリー・テンプレート」へと導入される過程はこれまでほとんど注目されてこなかった。これにより、SGGK(あるいはガウェインを中心とする関連物語)にも独自の展開や部分的な改変が生まれている。また、騎士ガウェインのもつ幾分否定的なイメージの払拭や見直しの契機が生まれていることがわかった。こうした文脈からトールキンの校訂本や現代英語訳の意義を再検討する必要がある。 そのほか、中世の受容に関する新たな研究の潮流として、“International Medievalism” に目を向け、既存の中世主義研究との共通点や相違点を明らかにした。これは従来の中世主義研究が前提とする西洋的な枠組みを超えてより世界的な規模で展開する中世主義の展開を考察するものである。こうした観点を踏まえ、国立国会図書館での資料調査(RPGを扱った90年代の雑誌など)も進め、日本のファンタジー文化を支える中世主義の諸相について理解を深めていった。また、ヴァナキュラー文化研究とも接続も模索し、「中世の英語文学とヴァナキュラーとしての歩み」(『立命館言語文化研究』)の中で両者に共通する理論の構築を目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Tolkien Societyにおける研究動向やMedievalism in East Asiaと題する国際ワークショップなど、オンライン上での調査を進め、加えて近年出版されたトールキンに関する二次文献の整理も行っているが、一次資料(原稿など)に基づく現地でのリサーチを行えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
『ガウェイン卿と緑の騎士』の受容に関して、「「ロマンスの時を求めて」:マロリー・テンプレートにおけるガウェイン物語の受容」と題する発表を行う予定である(中世英語英文学会西支部例会)。本研究を軸に、『ガウェイン卿の緑の騎士』の日本での受容過程を追跡し、ファンタジー文化への貢献を考察する。本書の日本語訳を整理し、翻訳に至った経緯や背景にあるアーサー王物語への関心、あるいは児童文学やRPGといったファンタジー領域との関連性など、学術的出版物だけでなく大衆文化にも視野を広げた研究を行う。そのため、引き続き文献資料の読み込みを進めるとともに、本研究分野に見識のある研究者と議論を重ね、特に20世紀の研究の推移や、日本のファンタジー受容について深く掘り下げていく。上記の調査を論文として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画ではイギリスでの現地調査を実施する予定であったが、新型コロナウィルスを巡る状況のために難しくなった。現時点で2022年度現地調査についても不透明であるが、状況が改善次第、検討したい。なお、2022年度も旅費の執行が難しい場合は、文献調査や研究者とのやりとりを中心とした別の研究調査方法をとることとする。
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