2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K13126
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
橋本 史帆 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60439502)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 移住 / 重婚 / オーストラリア / イギリス / 帰国者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、アンソニー・トロロープの長編小説の分析を本格的に始めた。これまで取り組んだことのない作家であったため、トロロープの小説や研究書に目を通すことにかなりの時間を費やすことになった。しかしながら、植民地オーストラリアが登場する『ジョン・コールディゲイト』、『レディ・アンナ』、『ハリー・ヒースコート』、旅行記『オーストラリアとニュージーランド』、トロロープの『自伝』を中心に、トロロープの植民地観をある程度明らかにすることができた。また、重婚という違法行為に着目することで、重婚がイギリスの価値観や制度、法律にゆさぶりをかけていることを検証することができた。これはまた、オーストラリアの制度が重視されており、イギリス中心主義の否定を示唆するものであることがわかった。これらの研究は、『ジョン・コールディゲイト』に関する研究発表と論文執筆(来年度掲載予定)に結実させることができた。 さらに、トマス・ハーディの短編小説にも目を向け、移住先からの帰国がもたらす影響を分析した。当時のイギリス社会には、帰国者をイギリス社会や文化を侵す脅威とみなす傾向があったが、そのような実情をハーディが小説に反映していることがわかった。それはまた、当時の移住政策の在り方を批判するものであり、移住のリスクや苦労に対するハーディの懸念を描出しているものでもあった。ハーディ作品と比較すると、トロロープ作品では、帰国者はイギリス社会に貢献する人物として描かれている。このようなところから、帰国者に対する期待や恐れが当時のイギリス人の中にあり、それが二人の作家の作中の帰国者に描き出されているのであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
トロロープの作品を読むことに時間を費やしたため、論文執筆が思うように進まなかった。また、イギリス以外の植民地を舞台にした作品に着目したり、重婚やそのほかの犯罪をめぐって、作家の植民地観やイギリス観を掘り下げていく必要が出てきた。そのため、かなりの時間を作品と研究書を読むことに費やすことになった。
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Strategy for Future Research Activity |
移住先であるオーストラリアを舞台にした作品を取り上げることで、トロロープがどのようなオーストラリア観を持っていたかをより明確化していきたい。さらにまた、重婚という二国にまたがる犯罪を扱った作品に注目することで、オーストラリアとイギリスのパワーバランスがいかに描かれているか解明していくつもりである。
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Causes of Carryover |
パンデミックのため、海外出張ができなかった。また、勤務校でのオンライン授業の準備などの時間を費やすことが多くなり、自身の研究に時間を割くことができなかったことも要因である。次年度は、これまでの研究成果の一部を論集として出版することになるため、その費用に助成金を当てたい。また、引き続き研究関連の書籍の購入が必要であるため、それに使用していくつもりである。
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