2019 Fiscal Year Research-status Report
グリム童話およびヨーロッパの民間伝承における五感に関する描写とメディア
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19K13133
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
鶴田 涼子 明星大学, 教育学部, 准教授 (10567001)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 民間伝承 / ヨーロッパ / 比較文化 / グリム兄弟 / 口承文芸 / 医学 / 感情 / 心理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、グリム兄弟が編集したドイツの民間伝承集『子どもと家庭のためのメルヒェン集』を中心に、ドイツ語圏及びヨーロッパの民間伝承において、五感に関連する表現技法がどのように民話に取り入れられているかを検証することである。口頭で伝承されていた話が文字として後世に残されることとなり、こうした民話の内部に存在する、文字化の過程で失われた聴覚的要素を含む描写およびそれらの役割について明らかにするものである。本研究を進めるため、2019年度に実施した研究の内容と成果は次の通りである。 1.資料収集と分析 2019年度は主に『子どもと家庭のためのメルヒェン集』とその類話における声や音に関する描写を確認し、それらの役割および聴覚に関する表現技法の違いを比較検討した。また関係資料の収集と文献の整理を実施した。資料の分析については今後も引き続き行なっていく。 2.現地調査 2019年8月末から9月初旬に、ドイツのマールブルク、カッセル、ベルリンを中心に調査と資料収集を実施した。現地調査により、『子どもと家庭のためのメルヒェン集』に関する現代社会への応用の仕方について知見を得たため、次の調査に繋がる着目点と訪問するべき施設が明確となった。また、オランダのライデン大学植物園にて、民話に登場する植物の生態について聞き取りを行ない、さらに植物を直接観察し、枝葉等の形や匂い、諸特徴について調査した。 3.2019年12月に、比較民族学会主催の研究発表会に参加した。口承文藝研究の視点に関してここで得た、「枠組みの発明」という見解は自身の研究において意識の転換点となった。これにより、主にヨーロッパで発表されてきた民話理論の整理および再構築の意義を再認識し、概念の理解について改めて精査する必要性を感じた。そのため、2年目は民話そのものの分析に加えて、口承文藝研究の理論の見直しと見解の整理を実施していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、段階的に進めていく計画をたてており、現在のところ、おおむね順調に進んでいると言える。 その理由として、当初予定していた資料収集と現地調査を実行し、その中で民話の舞台となる時代および職業生活について考察する機会を得たことが挙げられる。また、民話における聴覚的要素の確認および働きの分析については、当初の計画に沿って、『子どもと家庭のためのメルヒェン集』を中心に、該当する場面が頻出する5話を軸に進めている。2019年度は、参考文献となる洋書の調達に時間を要したため、今後は意識的に早めに書籍や資料の手配を行ないたい。年度末の3月は新型コロナウイルス流行拡大の影響から、国内での移動に制限が及び、主に手元の資料の分析に注力することとなったが、これも必要な作業であったため、研究の大きな遅れには至っていない。しかしながら2020年度は、当初参加予定であった国内学会の中止や国際学会の延期が決定するなど、開催の目処が立っていないものもあるため、今後は研究に遅れが生じるのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の推進方策としては、民話内の五感に関する描写の精査を引き続き行なう。併行して、2019年度の学会参加により知見を得た、口承文芸理論の変遷について先行研究を確認し、メルヒェンが発明された概念であるという見解に至る背景を見直す。 次に、民話の受容側に及ぼす影響について、理論的な基盤を確立するため、身体論的知見、心理学的知見等を整理する。民話の受容に関して、歴史の中における人間の進化と感情形成を結びつけて論じていきたい。また「声」と「文字」という表現方法の違いによって、受け手側の感情への影響関係を理論的に考察していく計画である。人間と動物の差異、発達と感情の繋がりに関する文献を通して、語り手の声によって民話を聴く場合と、自分で音読する場合、民話を黙読する場合による心理的作用の違い等に着目していく。 口承文芸理論の洗い直しには、時代ごとの変化に着目する必要があり、時間を要する計算であるが、研究が順調に進んだ場合は、発展的な課題に入る。民話と諸芸術の交錯という観点から、民間伝承が、戯曲、小説、オペラ、映画、アニメ作品等においてどのように脚色されているか、その表現方法について調査や文献をとおして研究を進め、多様な表現/表象が生じうる理由とその意義を考察する。
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Causes of Carryover |
2019年度は、参考文献となる洋書を含む文献の調達に時間を要し、年度内に受け取りが出来ない書籍があった。該当する書籍の予算は、次年度分として取扱いすることとなった。今後さらに物品および書籍の調達に時間を要する可能性があることを念頭に、意識的に、物品、書籍等の早期手配を行なう。次年度使用分の予算は、今年度の研究のなかで参照する必要性が見えてきた分野と口承文芸理論関係の書籍に充当する予定である。
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