2022 Fiscal Year Annual Research Report
グリム童話およびヨーロッパの民間伝承における五感に関する描写とメディア
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19K13133
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
鶴田 涼子 明星大学, 教育学部, 准教授 (10567001)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 民間伝承 / ドイツ / ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は『グリム童話』等のドイツ語圏及びヨーロッパの民間伝承において、五感に関連する表現技法がどのように取り入れられているかを検証するものである。19世紀初頭、グリム兄弟によって口頭伝承が書きとめられ、民話の受容の仕方が大きく変化した。語り部の声による伝承が、文字による「民話/作品」へと変化したとき、文字化の過程で失われた聴覚への働きかけは文字化された民話の内部にどのような痕跡 を残すであろうか、という問いを立て、声の文化と文字の文化の違いが人間の感情表現及び感情の描出方法にいかなる差異をもたらすものであるか考察した。 最終年度である本年度は、おもに民話の由来と類話との比較、改編による加筆修正を通して、グリム兄弟による変更箇所について分析し、その背景について研究を進めた。今回取り上げた話では、視覚から聴覚を中心とした描写方法へと移り変わっていることを明らかにすることができた。そして実地調査としてドイツ等を訪問し、伝承劇、人形劇の調査および資料収集をおこなった。伝承劇では、身体的な表現、身振り、表情、声の使い方に多様性があるのみでなく、決められた台詞に加えて、観ている者、聴いている者を意識した即興も見受けられ、この点で口頭伝承の特徴と共通することが強く認識された。 本研究の全体の研究期間をとおして、とくに民間伝承や民話に由来する作品における五感に関する描写に注目してきた。その背景には、民話は本来、口承であるために、文字化された際に口承性の特徴がどこかに残されているであろうという仮説と、口承であれば伝えられる直接的な情報を文字の中に組み込む必要があったのではないかという推測がある。本研究では、グリム童話の改編過程で視覚的な場面が削除され、聴覚に関わる描写のみ残されている箇所を確認することができた。ただこうした変更が改編の全体的な傾向であるかは今後の調査と考察によって明らかにする。
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